タテマエとホンネ2007/09/30 01:51

 今日は、AO入試の面談で出校。今日あたりからかなり涼しくなってきた。過ごしやすいという点では歓迎である。今年何人かの受験生と面談をしたが、短大を受ける理由に、経済的な事情をあげる志願者が多かった。これは、ここ数年顕著になってきた気がするが、今年は特に多い。兄妹がいるので自分は4大はあきらめたというのである。

 こちらとしても何とか経済的な負担を軽減してやりたいが、なかなかそうもいかない。確かに、授業料は安くはない。社会に出て自分で生活の基盤をしっかりさせてから大学で勉強する手もあるよ、と私は言うことにしている。私がそうだったから。もっとも、私の場合は学生運動で勝手に大学を辞めるという親不孝をしたのだから、あまり人に自慢できる話ではないが。その意味で、自分勝手に生きた私などより、この学生たちははるかに偉いと思う。

 隙間読書が最近隙間で無くなってきて本業がおろそかになりつつあるのだが、加藤典洋『日本の無思想』(平凡社新書)読了。実は、中国寧波大学の張先生のところの日本語を学ぶ学生に日本文化関係の本を送ろうと何冊か探していて、買い求めたうちの一冊がこれだった。送るのが惜しくなって、結局、送らずに自分で読むことにした。どうせ送っても中国の学生には理解が難しいと思う。

 まず戦後日本の「タテマエ」と「ホンネ」の分析から入る。実は、この「タテマエ」と「ホンネ」の使われ方は、戦後になってで戦前では今のようには使われていないという。「タテマエ」と「ホンネ」とは、入れ替え可能であり、「ホンネ」は決して信念や本当の心ではない。それは、ただ表には出せない言葉という程度のことで、そのような言い方が何故、戦後に成立したかというと、敗戦による、絶対的な服従体験があるのではないかと加藤は言う。

 つまり、戦後の日本人は、内の思想を言葉で外に語ることが出来なくなった。どんな立派なことを言っても「タテマエ」と「ホンネ」という枠の中に回収されてしまうという。実は、その淵源は、近代における公私の成立にまで遡る、と論理は展開していく。

 公(公共性)を、ギリシア哲学から俯瞰していく壮大な論理が展開されていくので、途中は割愛。要するに、筆者の言いたいことは、現代において公共性をどう回復するかということであるる。現代において、人は公共性のために生きるべきだ、と誰かが主張すると、「タテマエ」の中に回収されるか、その言説の権威のような立派さに敬遠されるのが落ちだ。

 何故、公共性が思想たり得なくなったのか、それは、公が真の意味での私の上に乗っていないためだというのである。近代以降私は「私利私欲」そのものである。これを否定したり、あるいはそれと関係なく、公共性の理念を打ち立てても、その公は意味を持たない。そうではなく、如何に私利私欲である私のうえに公共性を作るかそれが問題のポイントなのだという。

 私利私欲とは、単なるエゴイズムではなく、人間が生きていくための「生」の本性でもある。生活と言い換えてもいいと思うが、そこから公共性を作り上げなければ、逆の言い方をすれば、生活のにおいを消してただ高潔なところで公共性を作り上げても、それは権力そのものであって、その権力の被支配者には嫌悪されるだけの公共性にすぎないということだ。

 私はこの加藤典洋の考えに納得。こんなに論理的でないし緻密にではないが、私も同じようなことを考えている。

 参考になったのは、折口信夫の来訪神と土地神の対立と服従が、実は、日本の外の権威と日本との関係を象徴するという指摘だ。これは鶴見俊輔の指摘らしいのだが、中国やアメリカという外の権威に日本は、「もどく」という形で対立しそして服従するのだという。つまり、万才芸の「ぼけ」は、外の権威に服従する「われわれ」なのである。

 「もどく」とは相手の言葉をにやや屈折を加えて繰り返すことだが、能面のあの「べしみ」では、さらに服従するこちら側の屈折が言葉にならずに苦渋の表情を通して矯められるのだという。この「べしみ」の表情は、服従する側の「もどき」より、深い内面と相手への抵抗をあらわす。こっちに可能性はあるのだという。

 外の権威への服従のその仕方に中に、思想の可能性のあり方を読み取ろうとする思考は、読んでいて興奮した。そうか少数民族の思想とはこういう風に論じて行けばいいのだと気づかされたからである。隙間のつもりの読書だったが、本業の読書になってしまった。

      秋桜や背の高きから折れていく

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