少し真面目に考えた2006/10/13 23:15

どうも毎日通勤していると、教員という感じがしなくなる。授業するのではなく、学校へ行って会議と書類作りばかりだからだ。ようやく秋らしく空気はひんやりとしてきたのに、ちょっとこれは違うなあと思う毎日だ。

秋はイベントの続く日々で、川越祭りは明日から、共立では学園祭。供犠論の研究会が日曜にあって仙台に出かける。28日はアジア民族文化学会の秋の大会。今年は、長野県富士見町の井戸尻考古館で縄文の文様についてのシンポジウムを開く。懇親会は泊まりがけだ。

締め切りの原稿は、三浦さんの幻冬舎から出た本の書評を東京新聞に書くことになっている。これ位で、少し気が楽だ。

世間の話題は北朝鮮の核実験でほぼ埋め尽くされている。将軍様の狂気沙汰という論調だがよく考えれば将軍様は極めて冷静だということがわかるはずだ。北朝鮮のねらいは自国の安全保障だ。国民を餓えさせても体制を保持したいのが独裁国家の思考パターンだ。戦後の歴史を見ればわかるが、核保有国がテロ以外に他国から攻め込まれたことはない。核を持てば少なくともどんな悪さをしようと他国からは攻め込まれない、というのは冷厳な事実だ。

逆に言えば、核を持たなければ、攻められる危険がある。特にならずもの国家はそうだ。良い例がイラクである。ならずもの国家イラクは核を持っていなかったが故にありもしない嫌疑をかけられて攻め込まれフセイン体制は崩壊した。この出来事を見て、肝を冷やした不良国家は北朝鮮だけではないだろう。そして不良国家はみな共通の思いを抱いたはずだ。やばい!核を持たないといつかやられる、と。

イラク戦争はその意味で核拡散のきっかけを作った記念碑的な戦争になるだろう。イランも北朝鮮も核開発の動きがイラク戦争をキッカケにしていることは明白だ。考えてみればこれは皮肉な話なのだ。本来イラク攻撃は、大量破壊兵器を所有していることを名目としていた。つまり、核や生物化学兵器の保有を疑いその拡散を防ぐという目的の戦争だった。それが逆に大量破壊兵器を拡散させることにつながったのだ。

でも冷静に考えれば、現実をきちんと分析せずに、イデオロギーや思い込みで動けば大抵うまくいかないというこれは見本である。ブッシュやネオコン達のイデオローグは、イラクの現状やテロが発生する理由をきちんと分析せずに、武力でひと思いにやっつければ問題は解決すると信じ込んだ。そう信じ込ませた理由が、彼等のイデオロギーへの過信と、武力そのものへの過信であったことは間違いないだろう。

彼等のお蔭で、イラク戦争は泥沼化し、核は拡散し始めた。20世紀的イデオロギー過信がまだ続いている、ということだ。その実現の方法によっては自らを否定しかねないという法則を含まない理想主義は危険である、というのが、20世紀の教訓だった。その教訓がいかされずアメリカの大統領によって最悪な形で実践されてしまったことが今の世界の不幸なのだ。

軍事力の脅威を背景に理想主義を押しつけていく戦略がなりたたないことはすでに自明であろう。国連はとりあえず何でも話し合いに持ち込み曖昧な決着をはかることで武力衝突を回避を模索してきた。だがその枠組みを否定したアメリカ方式は、結局、北朝鮮の核実験を準備させたのである。そして、イラク戦争に、何の注文もつけず唯々諾々と従った日本もその責任を担う。

そう考えていったとき、北朝鮮をそのように追い込んでいったことについての反省が日本に一つもないというのは、おかしなことである。日本が世界から与えられている期待は、武力の脅しに頼らない問題解決の枠組みの提示であろう。少なくとも国連重視の日本はそういう政策で一貫して来たのだが、小泉首相から変わってしまった。

世界は今日本がいつ自らの核武装を言い出すか注視している。安倍首相は日本の非核三原則は見直すこともあり得ると以前発言している。北朝鮮の核実験を喜んでいる日本のタカ派は多いはずだ。北朝鮮の脅威を利用すれば日本は軍事的にも独立出来ることになるからだ。

北朝鮮の核実験は、一つのゲームの始まりにすぎない。中国ですら評価は二つに割れている。北朝鮮の核保有はアメリカへの防波堤になるとする考えと、逆に北朝鮮は核を楯に中国に無理難題を押しつけ脅してくるに違いないとする考えだ。つまり、北朝鮮は核を落とす相手を中国にする可能性は充分にある。

武力に頼る秩序維持はゲームをより複雑化する。対岸で見ているのは面白いが自分の問題となるとそうもいかない。日本はこのゲームに参加して振り回されるのか、それとも、別のゲームを用意するのかそれが今問われている。その時、役立つのが、憲法九条になるかも知れない。

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