ドキュメンタリーを見る2007/08/16 23:40

 さすがにここのところ暑い。高地とは言え日向に出るとじりじりと暑い。木陰で風邪が吹けば過ごせるほどで、ここで、こんな暑さはさすがにあまり経験したことはない。ただ、夜は涼しいので助かる。

 今日は安曇野に行った。奥さんの姪が安曇野のガラス工芸館でアルバイトをしているので陣中見舞いといったところだ。彼女は多摩美の学生でガラス工芸を習っている。その工芸館は多摩美大が運営しているらしい。観光客向けにガラス吹きの体験もできるようになっている。なるほど大学はこういうことも出来るのだと、管理職らしく感心。

 ここのところテレビでは戦後62年の戦争を振りかえる特集番組をあちこちでやっていた。なかなか見応えがあってつい見てしまう。そんな余裕はないのだが。NHKでやっていた「ニュルンベルグ裁判」のドキュメンタリー、日本の戦争についての証言記録を基にしたドキュメンタリーなど、思わず見入ってしまった。

 特にナチの戦争犯罪を裁いた「ニュルンベルグ裁判」は面白かった。このドキュメンタリーで大事な役割を果たしているのが心理分析官である。被告達との対話を通してその心理を分析し、連合国側に裁判を有利に運ぶためにアドバイスをする。

 被告達はの発言は当然の如く、駆け引きであったり、あるいは揺れ動く心理に左右されたりする。裁判の大きな目的は、勝者が敗者を裁く裁判そのものへの批判をかわすために、ナチの戦争責任を人類への犯罪という普遍的な罪にどう持っていくかである。それに対して、ゲーリングは自ら偉大な愛国者として振る舞う。戦争は常軌を逸するものではないか、国のために戦争を行った者がどうして犯罪者なのかと反論する。

 連合国側は苦境に立たされるが、それを救ったのが経済大臣だったヴァルター・フンクである。ヴァルターはナチの当事者として自分たちの行為がいかに残忍で人類への犯罪であったかを証言する。この証言によってこの裁判の正当性が裏付けられることになり、死刑相当だったヴァルターは終身刑になり、1957年に釈放され、ナチの責任を認めた男として脚光を浴びる。

 彼は外国からドイツへ大量の労働者を強制連行した総責任者であった。が、彼は生き延びたのに、彼の部下で実際に強制連行を行った労働力利用長官リッツ・ザウケルは死刑になっている。 

 最初、被告の中で孤立するヴァルターは動揺するが、心理分析官は巧みにヴァルターと他の被告とを遠ざけ、彼の自尊心をたてながら証言にまで持っていくのである。再現ドラマ風のドキュメンタリーであったが、心理劇として非常に見応えがあった。

 「ニュルンベルク裁判」と「東京裁判」の違いは、おそらく、ヴァルター・フンクがいるかいないかの差であり、そして、心理分析官が活躍出来たか否かの差ではなかったかと思う。「東京裁判」で、日本の侵略戦争をより普遍的な視点から犯罪的であったと認めたものがA旧戦犯にいたかどうか、詳しく調べていないので分からないが、恐らくいなかったはずだ。「赤信号みんなで渡れば恐くない」で戦争を始めた様なものだから、裏切り覚悟で天皇や東条英機の戦争責任を弾劾するものが出るとは思えない。

 心理分析官が活躍出来るのは、被告である戦犯達の心が揺れ動くからだ。揺れ動くのは、アイデンティティに最後までとらわれるからであるが、そのアイデンティティは集団への帰属ではなく、個の問題だからである。「ニュルンベルク裁判」のドキュメンタリーが面白かったのは、個の心理の葛藤が再現されたからだ。

「東京裁判」の戦犯達にはこのような個の心理劇はなかったろう。たぶん、自分たちの戦争についてまずかったと反省はしていても、個のアイデンティティは押し殺して、国家あるいは共同体に対してどうしたらみっともなくないように振る舞えるか、という心理で共通していたのではないか。

 日本の特攻によって沈められた戦艦に乗っていたアメリカ兵が、戦後62年たって、日本の特攻隊に会いに来るという報道が幾つかの番組で放映された。そこで、日本の特攻隊であった老人は、別に望んだわけじゃない、ある日上官から死んでくれないかと言われ拒否できなかっただけだ、と語っていた。当時拒否できる雰囲気ではなかったと強調した。それを聞いた元アメリカ兵の老人は、特攻隊もわれわれと同じ人間だったと語った。それが印象に残っている。

      人の咎?神の咎?戦記念日

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://okanokabe.asablo.jp/blog/2007/08/16/1729626/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。