ソマリランドが面白い2013/06/06 00:58

 いやはや忙しい。短歌評論の原稿を書き、授業の準備が山とあり、しかも市民講座の万葉講義が毎週あり、それに勤め先の将来構想の案を書きと、気がついたら休みなしである。先週の日曜はその数少ない休日を使って、学生を連れて佐倉にある歴博に出かけた。

 民俗文化の展示コーナーがリニューアルオープンしたので見に行ったということであるる。暑かったし疲れた。民俗文化の展示は第四展示室であるが、以前のよりかなり展示数が増え、観るのに時間がかかった。感想としては、以前の方がわかりやすかった。以前は、都市の位階や山海の異界といった、異界をビジュアルに展示していて、その意味で、展示コーナーそのものを異界風にしつらえる工夫があった。今度の展示は、異界というテーマを中心から外し、生活における民俗文化を中心にした。例えば日本の観光地がどのような戦略で地域の伝統文化をアピールしているかの展示がある。ほとんど観光案内と見まごう展示である。デパートの高給おせち料理がこれでもかと並べられたりと、雑多の生活文化をそのまま雑多に並べているという印象である。
 
 注目は、東北大震災の津波で倒壊した大きな茅葺きの旧家の部屋を再現し、その倒壊した写真を展示していることだろう。大震災と無縁な展示ではないというメッセージが感じられた。結局、展示の内容が雑多過ぎてこちらの整理がつかず、見終わってからあまり思い出せないのである。

 帰りに全国の博物館の特別展の目録や図録を販売している売店で、遠野関係の図録を数店五千円ほど買い求めた。研究室に持って帰ったが、全部研究室に揃っていた。数年前に同じところで買い求めていたのである。愕然とした。一点だけならよくあることだ仕方ないということになるが、数点全部となると、自分の惚けを心配せざるを得ない。こういうことが最近よく起こる。

 最近読んだ本。竹田青嗣・山竹伸二『フロイト思想を読む』(NHKブックス)。これは、ラカン関係の本を読んでいたので、フロイトの復習のつもりで読んだ。現象学とフロイト思想の類似が説明されている本であるが、自我形成のプロセスがわかりやすく解説されていて、エヴァンゲリオンの碇シンジの解説に役立った。

 面白かったのは高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)である。ノンフィクションだが、ソマリアに民主主義と平和を実現しているソマリランドという地域国家があると聞いて、ソマリアに単身乗り込み、徹底して体当たり取材をした、めっぽう面白いルポルタージュである。

 この本を読むと、ソマリア通になれる。部族国家というものの面白さやその知恵がよくわかる。ソマリア北部ではたくさんの犠牲者を出した内戦にいやけをさし、部族の長老たちが集まって選挙による議会を作り、法律を作り、武装解除までして、平和になったというのである。彼らは独立宣言したソマリランドという国家を名乗っているが、世界はそれを承認していない。ある部族が勝手に国家を名乗っているぐらいにしか思っていないからだという。

 ところが、実際のソマリア政府のあるソマリア南部はいまだに内戦状態で、イスラム原理主義勢力によるテロも頻繁に起こる。海岸では海賊行為もまだ行われている。何というかめちゃくちゃなのであるが、そういう中で、国家を作り武装解除に成功したソマリランドはすごい、とおもわざるを得ない。日本で言えば、大和朝廷が日本を統一する以前の部族国家みたいなものなのだが、ちゃんと民主主義の原則も取り入れているというところが、偉いのである。この本読むとソマリア人、特にソマリランドの人が好きになる。

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