友愛の物語 ― 2008/10/16 00:11
ケストナーの『飛ぶ教室』を読む。先日、神田ブックフェスティバルの企画をしている読売新聞の人たちとの打ち合わせ。11月2日に三浦しをんとテレビのコメンテーターで顔を見かける橋本五郎氏と私の勤め先の大学で対談をすることになっているのだが、その打ち合わせである。私の推薦図書はすでにだしておいたが、しをんさんの推薦図書を見て驚いた。
中井英夫の『虚無への供物』と大西巨人の『神聖喜劇』が入っている。げげっ、『神聖喜劇』は全五巻だぜ。それを読まなきゃならんのか。それにしても、少しは手加減してよ、と言いたくなる選び方だ。その若さで何で大西巨人なんだ…と言いたくもなるが、まあ、そうはいってもしょうがないので、まず推薦された本の中で一番読みやすい少年文学の『飛ぶ教室』から読み始めた。
1933年のナチスが支配し始めたドイツで書かれたこの少年文学は、涙がでるほど美しい本だ。ケストナーの本はナチスによって焼き払われたが、この本は焼かれずに読まれたらしい。寄宿舎の少年たちと先生たちとの美しい愛に満ちたこの物語は、同じ教育の場にいる私には、ほとんどお伽噺だが、ヨーロッパ教養主義が夢見る理想がよくわかる。
私の勤める学校の建学の精神の中に「友愛」というのがある。『飛ぶ教室』はこの友愛の実現を描いたものだ。三浦しをんが何でこの少年たちの友愛の物語を選んだのかはよくわからない。まさか、BLの原型を見出したのではないか、などと評したら顰蹙ものだろう。いやここは素直に、私だってこういう少年の友愛世界に感動する魂はまだ持っている、と言っておこう。
私は教師と言うこともあるが、純粋な教師ものの物語は嫌いではない。そういう映画もよく観る。現実ではあり得ない物語でも、そこには教師という像へのある夢が語られていて、やっぱり、そういう夢は捨てがたいのである。私も少しは理想主義者の部分を持っている、ということかも知れない。
ただしこういう美しい少年の友愛の物語をナチスに憧れた少年達もまた夢中になって読んだのだということは覚えておかねばならないだろう。例えば同時代にジャンコクトーは『恐るべき子供たち』を書いている。友愛とは対極の子供の世界である。暗い結末のこの本は美しい涙で読み終える本ではないが、むしろこっちを読んでいる自分の方に自由というものがある。理想主義の本は人を不自由にする。それがナチスのドイツに受けいれられた一つの理由だったかも知れない。
打ち合わせの時、読売新聞社の人たちが、紙袋いっぱいに、三浦しをんが推薦した本を詰めて来て私に渡した。要するに読め、ということである。やれやれである。
秋の日美しき物語を積む
中井英夫の『虚無への供物』と大西巨人の『神聖喜劇』が入っている。げげっ、『神聖喜劇』は全五巻だぜ。それを読まなきゃならんのか。それにしても、少しは手加減してよ、と言いたくなる選び方だ。その若さで何で大西巨人なんだ…と言いたくもなるが、まあ、そうはいってもしょうがないので、まず推薦された本の中で一番読みやすい少年文学の『飛ぶ教室』から読み始めた。
1933年のナチスが支配し始めたドイツで書かれたこの少年文学は、涙がでるほど美しい本だ。ケストナーの本はナチスによって焼き払われたが、この本は焼かれずに読まれたらしい。寄宿舎の少年たちと先生たちとの美しい愛に満ちたこの物語は、同じ教育の場にいる私には、ほとんどお伽噺だが、ヨーロッパ教養主義が夢見る理想がよくわかる。
私の勤める学校の建学の精神の中に「友愛」というのがある。『飛ぶ教室』はこの友愛の実現を描いたものだ。三浦しをんが何でこの少年たちの友愛の物語を選んだのかはよくわからない。まさか、BLの原型を見出したのではないか、などと評したら顰蹙ものだろう。いやここは素直に、私だってこういう少年の友愛世界に感動する魂はまだ持っている、と言っておこう。
私は教師と言うこともあるが、純粋な教師ものの物語は嫌いではない。そういう映画もよく観る。現実ではあり得ない物語でも、そこには教師という像へのある夢が語られていて、やっぱり、そういう夢は捨てがたいのである。私も少しは理想主義者の部分を持っている、ということかも知れない。
ただしこういう美しい少年の友愛の物語をナチスに憧れた少年達もまた夢中になって読んだのだということは覚えておかねばならないだろう。例えば同時代にジャンコクトーは『恐るべき子供たち』を書いている。友愛とは対極の子供の世界である。暗い結末のこの本は美しい涙で読み終える本ではないが、むしろこっちを読んでいる自分の方に自由というものがある。理想主義の本は人を不自由にする。それがナチスのドイツに受けいれられた一つの理由だったかも知れない。
打ち合わせの時、読売新聞社の人たちが、紙袋いっぱいに、三浦しをんが推薦した本を詰めて来て私に渡した。要するに読め、ということである。やれやれである。
秋の日美しき物語を積む
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