就活本2011/12/14 00:55

 来年度また学科長をやることになった。どうも私の学科には人材がいないというか、人材といっても、マネージメントに長けた人材という意味だが、私はあると見られていて、またやらされるというわけだ。また忙しくなる。これ以上忙しくなるということはどういうこになるのか、よくわからないが、まあ何とかなるだろう。

 ここ数年短大に逆風が吹いている。経済的な事情から短大に志望する学生は少なからずいるのだが、就職のことを考えてだろうが、4大志向がかなり強まっているのは確かだ。今、短大は、何処でもそうだが、撤退するか(むろんそういった条件があればだが)、縮小するかの選択を迫られている。残念ながら現状維持というのは難しい。

 今日1年生が、ある大手企業の説明会の申し込み受付にインターネットで申し込んだらいっぱいで申し込めなかったのだという。話を聞くと、朝の6時が受付で、6時5分に申し込んだらすでに終わっていたのだという。みんな5時台からスタンバッていて、6時になると一斉に申し込むらしい。

 そんな大手に申し込むからだよ、といったが、結局、企業選びが、消費者目線による有名企業になってしまう。小さくて有名でなくても優良企業はたくさんあり、短大生が入れる企業だってある。まずはそういう企業を探すことから始めるしかないのだが、どうしても、世間に名の知られている有名企業に憧れる。みんなが殺到するから、結局、短大生はまずは入れない。

 短大の生き残りは、就職率にかかっている。この就職率を上げるにはどうしたらいいか、が、たぶん、私のマネージメントということになるだろう。これがなかなか難しい。就職支援は、普通、教員ではなく就職進路課という部署の職員がやっている。どこの大学でもそうなのだが、教員の仕事ではないのだ。ところが、最近は教員もやらざるを得なくなっているのだ。就職活動のためのスキルアップの講座や、将来設計を考える講座(キャリアデザインという)を正課の中に取り入れざるを得ないのが実状なのだ。が、そんなことを教員が教えられるものではない。ほとんどの教員は、まともな就活なんかしたことがないのだ。というより就活したくないから教員になった、という者ばかりである。そんな教員が就活についてアドバイスするなどということは無理なのだ。

 ところが、就活本を書いた売れっ子の社会学者がいる。宮台真司である。私も気になって『宮台教授の就活原論』という本を買って読んだ。読んだ感想。面白かった。ただ、これは使えねえな、というのが結論。難しいというより、偏差値の高いかなり出来る奴向けの就活本である。彼は首都大学東京の教授だから、ターゲットは自分ところの学生なのだろう。ただ、それでも、教えられるところは多々あった。

 この本の内容は、宮台の最近の主張そのものが全面展開された上での就活の心構えということになる。その意味でけっこう難しい本でもある。彼は、まず、今の日本の国家や企業ははでたらめだから簡単に信用してはいけないという。だから、国家や企業から押しつけられた、「自己実現」などという就活のための課題などまともに考える必要は無い。適当にあしらっておくべきという。将来の目標とか聞かれたら平気で嘘をつけるくらいでないといけない。大事なのは、どんな企業にでもどんな仕事でにも対応でき、かつそこで生きて行ける対応力であるという。この主張には大いに賛成。

 大事なのは、競争社会を生き抜く力ではなく、むしろ、今は、帰るべきホームベースの確保であるという。社会があてにならない現在、自力で帰属する場所を確保しておかないと、結局、働くこと自体がたちゆかなくなる。ホームベースとは家族だけとは限らない。どういう形でもいいいから、安定した感情を保てる場所であり、それは個であることを意識させない場所である。そういったコミュニティ作りを日本の社会はいつのまにか衰退させていった。だから、これから新しくコミュニティを自力で作っていくべきなのだという。

 結論としてこのでたらめの社会を生き延びるためには、「ひとかどの人物」になるしかないという。そのためには「スゴイ奴」と出会え、という。自分がいかにすごい奴と出会ってきて、「ひとかどの人物」になったか(とまであからさまに言ってないがそう読める)を、たくさん書いている。

 才に長けている自分の自慢話がやや鼻につく本だが、頷けるところは多い。だが、これを短大生にそのまま話すのは無理である。偏差値の高いエリート学生にさえしたたかに自力で生きろと説かざるを得ないのだとしたら、短大生にはなんて言えばいいのだ。

 でも、短大生は卒業してみんなしたたかに生きている。そう思っている。宮台の言っていることは、もうすでに短大生は実践していることなのだ。というより、実践せざるを得ないということだ。とりあえず最初は有名企業を受けるが、だんだんと身の丈に合った就職先を探して何とか落ち着いていく。むろん、その身の丈に合った就職先の確保すら今は厳しいという現状はあるが。