久しぶりに柄谷を読む2010/07/17 00:00

 今日は大腸検査の日。前日から食事を控えめに、朝西国立の病院に行く。検査自体は麻酔なのであっという間なのだが、腸を洗浄するのに時間がかかる。今日も午前中ずっと洗浄剤とやらを飲み続け、なかなか便意を催さないので、大分時間がかかってしまった。

 一応小さなポリープはあったとのこと。毎年受けてるが必ずある。そういうものなのだろうが、大きくなると悪化してガン化する可能性もあるというので、毎年この検査を受けざるを得ないのである。今年はこれで検査の一つが終わったということになる。

 午前中、やることないので病院で柄谷行人の『日本精神分析』を読んでいた。柄谷は久しぶりだがなかなか面白かった。特に、菊池寛の「入れ札」という短編を題材にして、民主主義の危うさを論じていくところは圧巻である。

 歴史的に普通選挙が成立したときに、ヒットラーのような独裁者が現れる。それは、普通選挙が、真の代表を選ぶ選挙だという錯覚を与えるシステムだからだという。つまり、どんな選挙であれ、選挙前から代表者は、権力の操作やマスコミによって決まっていて、選挙とはそれを民主的な手続きで選ばれたというお墨付きを与える制度に過ぎないというのだ。何故、そのような錯覚が生まれるのかというと、匿名による投票という巧妙なシステムにあるという。投票は無記名だから、選ばれたものは、自分は特定の誰かに選ばれたのではないという幻想を抱ける。が、実際は、匿名などと言うのも錯覚で、ある程度誰がいれたかなどはだいたいわかるもので、例えば、地方の選挙では、票数あらかじめが読めてしまうが、これは匿名というシステムが最初から錯覚であることを物語っている。

 つまり、こういうことだ。匿名を信じ、自分たちの真の代表を選んだと思う有権者は、選んでから失望する。というのは、選ばれた者は、最初から特定の層の利害を代表するものにすぎないからだ。従って、特定の層の代表にすぎないものが、匿名選挙というからくりによって真の代表者のような顔をして政治にのぞむ。当然有権者は失望し、真の代表を渇望し始める。そこで登場するのが、大衆の真の代表者だと訴えて選挙制度そのものを形骸化する独裁者なのである。

 柄谷がいいたいことはこういうことだ。選挙で真の代表を選ぶことが出来るというのは幻想に過ぎないということだ。そういう期待が独裁を生むということである。有権者の意志というのも余りあてになるものではない。例えばネットで国民投票をすると仮定しよう。ネットでの発信は熟慮するという余裕を与えない。ネットでのやりとりの多くが誹謗中傷に流れてきわめて感情的になりがちであることがそのいい例である。今度の選挙でも、有権者の意見は、ほとんどがマスコミの誘導によって作られる。つまり、有権者の意見というものは常に流動するものであり、それらの意見を集めることが、有権者にとって正しい選択につながるとは言えないということである。去年と今年の選挙の民意というものを見れば確かにその通りである。

 むろん、柄谷は選挙そのものが良くないといっているわけではない。例えばアテネでは、僭主の独裁を防ぐために様々な工夫が為された。その一つがくじ引きであるという。柄谷は、選挙である程度の代表者を選び、権力を握るものはその中からくじ引きで選べばいいという。それなら、選ばれたものは、自分が真の代表であると主張することは出来ないし、人々も過剰な期待を抱くこともないし幻滅もしない。

 今の日本の選挙は、社会を良くする真の代表を選びたいという幻想によって投票し、選んでみると、期待通りではないと幻滅する、そして自分の信念を曲げない政治家をと、真の代表者をとまた期待する、という悪い循環に陥っている気がする。今の日本の状況をみれば、相当の詐欺師でないかぎり、国民の期待に応えることを演じることはできないはずだ。つまり、選挙に選ばれれば必ず期待を裏切る、ということが今の日本の民主主義のありようである。

 これに早く気づくべきだろう。マジックのように日本を変えるなんてことは誰も出来ない。期待と失望の繰り返しの民主主義は、匿名選挙のシステムそのものに由来するのだ。選挙をなくす訳にいかないのだから、とにかく選んだ政治家に簡単に失望せずに、まずは仕事をさせてやろうと言うくらいの度量が必要なのではないか。

                       梅雨あけてわがむらぎもをしらべけり

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