終わりがあるから…2010/02/16 00:00

成績をつけ終え、ウェブ上で採点登録。便利になったもので、成績をいちいち学校に提出しなくてもすむのである。ただ、三人でやっている授業があり、その成績は三人がそれぞれ自分の担当の評価をして、それを最後に合算して最終の成績をつける。これは少し面倒であったが、何とか締め切りまでに間に合った。来年度は五人でやる授業がある。一人3回分担する。この成績評価をどうするか、今から頭が痛い。

 朝日新聞に内田樹の記事が出ていて、彼は、神戸女学院で、教務部長やら入試担当の役職もやっていたそうだ。いやはや大変な仕事で、よくやると感心する。その忙しさで、よく本が出せると思うのだが、考えてみれば、ブログを本にしているので、結局、ブログの文章をうまく使って、自分の思考を整理し、それなりの時代へのメッセージを発信しているというわけだ。忙しい人間にはブログはその意味でとても便利な発信ツールである。

 私も、忙しいがブログを書いている。ブログわやめたらほんとうに文章を書く機会が無くなってしまうと不安になるのと、書きながら考え、考えを整理するというのが性にあっているので、これでも時間を無駄にしているつもりはないのである。

 内田樹の言葉に、今大学は新しいことをやらないと学生が集まらない。新しいことの賞味期限は3年である。だから、常に新しい試みを続けていかなければならない宿命なのだ、と語っている。これはその通りである。私の学科では心理学コースを作り、三年を終えた。四年目の今度の入試は苦戦している。去年の反動ということもあるが、新コース新設の賞味期限が切れたのである。

 友人のブログで、和歌の定型の話が例に挙げられていた。渡部泰明の言葉で、和歌は終わりが決まっているからいいのだ、というのが引用されていた。実は、今日、私はやはり渡部泰明の同じ言葉を思い浮かべていた。偶然の一致である。私の場合は、4月にシンポジウムで穂村弘と一緒にパネラーになっていて、そこで何を話すか考えていただけである。友人のブログのように死ぬ時にすべての意味が決まるなんていう暗い話ではないが、明るい話でもない。

 考えていたのは、どうもわたしたちは、表現された言葉の意味よりも表現に至るプロセスをより深く評価しようとする傾向がある、ということだ。言い換えれば、感動というものを説明しようとすると、それは意味として理解されるところにはなく、その意味がことばとしてどうたちあがってくるのか、そこを説明しようとする。つまり、感動するというのは、意味を共有することではなく、意味としてたちあがるまでのそのプロセスを共有できたことにある、ということのようだ。

 これはわからないではない。言葉に感動するとき、わたしたちは、その言葉は、その言葉の担い手(表現者)という次元を越えてどこか別のところから来ている、ということを直感している。とすれば、それは、表現者が位置づけられている意味の体系的世界とは別次元の世界であることになり、それをわたしたちが共有出来ているから、直感できるということになる。だから、それを知ろうとすれば、その言葉がどう立ち上がってきたのかそのプロセスを知りたくなるし説明したくなる。

 つまり、ある必然性の元に発せられる言葉を、偶然性や神秘性の側に変換させることをわたしたちは無意識に行っているということになるが、実は、この変換の仕組みは、和歌という定型の仕組みなのである、と論じているのが、渡部泰明なのである。

 彼は和歌という定型は、言葉を運命の予感に満ちた言葉にする、と言う。つまり、定型に投げ込まれた言葉は、表現者の意図や必然性に操られて言葉ではなく、それとは別次元の、運命的な言葉、つまり、神の如き何かに操作されているとでも言うしかない言葉に変換されるということだ。

 終わりは決まっている。が、決まっているということは、表現者がその終わりまで描いた言葉のイメージとは違う、別の何かによる終わり方を強いられている可能性を抱え込む、ということでもある。その終わり方は意味づけられないという意味で、未知であり、ある意味では神秘なのでもある。「終わり良ければすべてよし」というのはそういうことではないかと、思う。つまり終わりが決まっているから、わたしたちは、意味ではなく意味にいたるまでのプロセスを共有していることに気づかされるのだ。

                       終わりなきことばなどなし余寒かな

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