神話と心理学2010/02/14 00:46

 今日は朝から時折ミゾレ交じりの冷たい雨。こういう天気も久しぶりだ。学会の例会があったが、一日家で仕事。天気のせいもあるが、昨日、インプラントを二本入れたので、さすがに、外出する気にはなれない。

 やはり一日くらいは、出血もあり、痛みも少しはある。治療と言うよりは手術に近い。静脈注射で鎮静剤を打たれ、結局ほとんど眠っている状態で治療は終わったが、二時間はかかった。

 入れ歯にするよりはと選んだ治療だが、それなりに身体には負担はかかる治療だろう。骨に穴を開けてチタンのボルトを差し込むのだから。初めてではないにしても、大事をとって今日はなるべく家で静かに過ごしていた。

 だいぶ前から時々読んでいた隙間読書だが、北山修と橋本雅之『日本人の原罪』(
講談社現代新書)を読了。「イザナキ・イザナミの神話に示された罪と恥を読む」と帯にある。それにつられてつい買ってしまった。

 北山修の本は以前読んだことがあった。日本の神話をフロイトの心理学で読むというものだったと思う。ユング派の河合隼雄の『昔話の深層心理』より難しく、あまりよくわからなかった。今度の本は読みやすく書かれてはいるが、それでも北山修の文章は難しい。

 その理由は、神話を心理学的に読み込むことでカウンセリング理論として機能させようという意図があるからだと思える。つまり、日本人の原罪の在処とその隠し方を、イザナキ・イザナキ神話に見いだし、そこから、分析するものとされるものとの関係に適応させようとしている。原罪は、分析される者にも時には分析する者にも適応される。それが問題をとてもややこしくしているようだ。河合隼雄のように日本人の文化や深層心理あたりの問題として語れば分かりやすいのだが。

 たとえば、北山は、イザナキがイザナミの「見るなの禁」を破って覗いた行為は、美しいという幻想を打ち砕かれた幻滅体験であって、覗いた罪を問わないことはその幻滅体験を隠蔽することであり、そのことが日本人のトラウマになっているのだという。

 神話研究者の橋本雅之は、北山修の解釈を受けて、覗いてしまったイザナキの原罪、その罪を引き受けて。イザナミを手厚く弔うことが必要だと述べる。つまり、日本人の心の病は、禁を破ってイザナミをのぞき見、幻滅して、弔わずに逃げ出し、そのまま汚いものを見ぬふりして生きていることにあるのだという。だから、イザナミの死に向き合い、弔うべきだというのである。

 そうすれば日本人は、現実をもっときちんと受け止めることが出来るということなのだろう。

 覗くなと言ったのは、相手である。おそらく、覗くことを承知で言ったのではないか、と思うのだ。とすればこれは罠である。イザナキも、「夕鶴」の与ひょうも、罠にかかったと言えないか。罠とは、異類と人間は決して同じ世界に住めない、という運命を異類の側から悟らせる誘いであろう。それならなぜ逃げたのか、と言う問題が後に残る。が、これは決して卑怯なことではない。ただ。覚めてしまったということだ。そのことを罪というのは酷である。覚めなければ、異類との世界にとらわれることになる。それは幸せなことなのかどうか。幸不幸は、人間の側の問題であり、異類の世界で生きることは、死と同じことになる。つまり、幻想を生きることになる。

 覚めるとは幻想を生きることを回避したということである。その意味では、覗いた後、人間は生きるために逃げなければならないのだ。ただ、そのときに、確かに、悔いが残る。覗いたという悔いであり、なぜ逃げたのかという悔いである。それを原罪というなら確かに原罪である。だが、それは、別に日本人の原罪というわけではない。人間であれば必ず引き受けなければならないものだ。

 確かに、イザナミの死と向き合え、というのはよくわかる。が、フロイトの「悲哀の仕事」を読めば、人はいきなり最愛の者の死と向き合えるものではない。生きているという幻想を抱き、そして悲嘆し、そして忘れる。そう考えれば、逃げることは卑怯なことではなく、立ち直っていくための必要な行為だったのではないか。私はそう解釈する。

 ところで、この本を読みながら、私の学科で、心理学コースがあるのだが、神話と心理学という講座が出来るのではないかと考えた。こういう授業なら学生も興味をいだくのではないか。この本を読みながら、私の頭はほとんど学科長のモードになっていた。 

        浅ましき過去など棄てて余寒かな

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