『瓔珞』が終わる2020/08/07 22:33

『瓔珞〈エイラク〉~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~ 』が終わった。全70話、毎回観ていた。面白かった。中国の後宮ものは敬遠していたが、『瓔珞』にははまった。後宮で不審の死を遂げた姉の死の原因を探るために、主人公の瓔珞は後宮に奴婢として入る。持ち前の才気と強い意志で、姉の死にかかわったものたちに容赦なく復讐していく。瓔珞は皇后を支える女官となり、やがて最後には皇后となるというサクセスストーリーなのだが、そのストーリーのほとんどは、後宮の女官や皇妃達の嫉妬や権力を巡る争いによる事件の連続である。その出来事の中心には瓔珞がいる。瓔珞の役回りは、他の女官や皇妃のいじめや陰謀によってひどい目に遭ったり、追い詰められたりするのだが、その優れた機知によって危機を脱し、用意周到な機略で、瓔珞を陥れた相手をやっつける。中国版半沢直樹と宣伝文句にあったが、とにかく、やられたらやりかえすその徹底さが爽快で、観ていて飽きなかった。

 陰謀を企てる後宮の皇妃達の描き方も、単純な悪女として描くのではなく、そうせざるを得ないような境遇にあらがえない悲しい存在としてきちっと描いている。そういう人物描写の細かさが、この物語を見応えあるものにしていると言っていいだろう。また瓔珞をも、いわゆる男を惹きつけるような女らしさを持たない女性として描く。ここがこのドラマの特徴と言えるだろう。瓔珞は逆境を跳ね返すような意志のつよいきつい目の女性で、ほとんど笑わないので愛嬌はない。どちらかと言えば少年のような中性的な顔立ちとも言える。このような女性が、女性性を武器に女たちが抗争する後宮で、女性性ではなく知略によって勝ち抜き、しかも最後には皇帝の愛を勝ち得るのだから、今までの後宮の争いものとはひと味違った物語展開と言えるだろうか。

 この物語、清の6代目の皇帝である乾隆帝の時代の話で、清のもっとも隆盛だった時代だと言われている。領土拡大のための戦争は何度も行ってはいるが内乱はなく、その意味では平和な時代だった。従って、後宮の皇妃達の、皇帝の寵愛を得る争いは、後継者を巡る争いでもあって、皇妃たちも実家である豪族の期待を負っているから、その争いは、熾烈を極め、ライバルの命を奪うというところまでエスカレートする。ほとんど戦争といってもいい。その意味では、瓔珞は戦場で決して負けない英雄であり、女性同士の争いの物語を敬遠しがちな私でも、面白く見ることが出来た。

 中国のドラマはやはり歴史物の史劇が好きで、私が観たドラマで面白かったのは『三国志』『項羽と劉邦』『秀麗伝』である。『三国志』『項羽と劉邦』は代表的な歴史物語だが、『秀麗伝』は光武帝とその妻の物語。光武帝は後漢を建国するが、それを助ける妻が主人公。「妻を娶らば陰麗華」という言葉で知られた女性である。腐敗した王朝が瓦解し、各地で反乱が起こりそのなかから傑出した英雄が現れ新たな王朝を建てていくという壮大な史劇は、中国の大河ドラマであり、見応えがある。ちなみに、中国の歴史の中で、一番好きなのが光武帝である。この人は、建国の英雄だが残虐さがない。国を建てるとたいてい粛清が始まるが、光武帝はそういうことはしない。妻を大事にするところもいい。その光武帝を描いた『秀麗伝』はおすすめである。

 私の住むマンションは庭が広く木々が繁っている。この季節蝉の声がうるさい。蝉の声を聞きながら、いろんなことを思う。

   よく聞けば死んでなるかと鳴く蝉も