芥川賞の作品を読む2012/09/10 00:34

 NHKの特番、復興予算がどう使われているかという番組を見ていたらさすがに腹が立ってきた。われわれの増税で作られた19兆もの復興予算が、結局復興とは関係のない公共事業のような予算に大分回されている。被災者のための予算なのに簡単には被災者に予算が届かない仕組みがこの国にはある。官僚や政治家や利権にかかわるものたちが、復興のためと称して予算をどんどんかすめ取っていく。選挙が近いらしいが、こういう構造を何とかする選挙にしないとこの国はどんどん駄目になっていく。民主党も、事業仕分けでこういう構造に切り込んだのに、結局何も出来ないのだろうか。

 この一週間の読書。むろん古本市のための読書である。鹿島田真希『冥土めぐり』(河出書房新社)、西村賢太『苦役列車』(新潮文庫)、中野美代子『カスティリオーネの庭』(講談社文庫)、近藤文恵『カナリヤは眠れない』(祥伝社文庫)、冲方丁『天地明察』上下巻(角川文庫)、黒野伸一『限界集落株式会社』(小学館)。

 今回は芥川賞の作品を二冊読む。『冥土めぐり』は★★★。やや期待外れ。小説のねらいはよくわかる。普通ではない母と弟を背負い込んだ主人公が、脳に障害を負った夫によって救われていく、という物語だが、物語に入り込めないのは文体のせいと、異常な母や弟の描き方に無理がある。こういう人たち確かにいそうだが、この小説のなかではそのように思えない。細かな点だが、母もとスチュワーデスとある。私見だが、ここで描かれている異常な性格ではスチュワーデスという職業は無理だろうと思う。いささか無理な設定でもその無理を感じさせないほどの文章の迫力はなかった。

 西村賢太『苦役列車』は★★★★。これは予想より面白かった。底辺層にいて、劣等感のかたまりで、時々自虐的で、しかし、生きることへの執着は失わない、という古典的なテーマを見事に描いている。ドストエフスキーの『地下生活者の手記』もこんな感じの情けない生が描かれていたと思い出したくらい、普遍的に人間を描いている。微妙に主人公に距離をとる語り手もいい。読むのが辛い小説なのに、あまりに情けなくてつい笑っちゃうという、その距離感は、「私小説」という語り口をスタイルにしているからだろう。

 中野美代子の小説は私のやや趣味的読書。小説てとしては★★★。おすすめほどではないが面白かった。清朝、乾隆帝の時代、皇帝お抱えの西洋人画家カスティリオーネの話。カスティリオーネは皇帝から噴水のある西洋庭園を作るよう命じられる。清朝のキリスト教布教やその弾圧の様子がよくわかる。教養書として読めば★★★★か。

 『カナリヤは眠れない』は★★。期待外れ。元気が出ます、というキャッチコピーのようには元気にならなかった。主人公の整体師の出番が少な過ぎるし、悩んでいる客の悩みに共感出来ないというのもある。『天地明察』は★★★。映画化もあって今宣伝中の本だが、期待した割りにはのれなかった。これは主人公の職業そのものにも原因があろう。碁や天文が職業だが、その職業の話を中心にしてわくわくさせる物語にするにはなかなか難しい。必ずしも成功していない。後半の、挫折し、立ち直って偉業を果たすところの展開がばたばたしすぎで、速読しているような気持ちになる。前半のようにじっくり書き込めばまた違った読後感だったように思える。

 『限界集落株式会社』は★★★。題材が面白くけっこう期待したのだが、物語的にはまだまだ。老人達がもっと活躍するのか、と思ったら、結局、ばりばりのエリートや村を担う若手が過疎の農業をどう再生していくか、という、成功物語とそれにまつわる恋愛の話になってしまった。成功物語は、「プロフェッショナル」や「カンブリア宮殿」といったテレビ番組を見ているようで面白いが、それ以外の人間模様はありきたり。が、日本を元気にしていくのは、こういう地域の活性化であることには違いない。

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