中国と台湾に行く2017/09/17 12:21

 この夏は中国と台湾に行ってきた。中国は調査と学会参加。訪れたのは雲南省の麗江と昆明である。麗江は毎年訪れており、定点観測みたいになっている。毎年来て思うことは、夏の麗江は年を追うごとに喧噪になってきているということだ。理由は中国人の観光客が増えてきていることである。世界遺産の伝統的な街並みがいつの間にか数倍に拡大した。観光客を当て込んで、伝統的な家屋風の建物の土産物屋を増殖させているからである。

 何でも中国でヒットした恋愛映画の舞台が麗江だったそうで、その影響もあって、麗江は中国の若者の出会いの聖地になっているそうだ。やたらに若者の多い理由がそれでわかったが、20年前の静かな美しい街を知っている者としては複雑な思いである。観光産業として発展していることは歓迎すべきだが、負の側面もあることを忘れてほしくない。

 世界遺産の街並みや、ナシ族の伝統文化は商品ではない。が、今、観光の目玉として消費対象にされている。問題は、金儲けの対象になってしまうことで、守るべき文化が破壊されたり消えてしまうことだ。宗教儀礼の担い手でありトンパ文字の継承者であるトンパは、いつのまにか観光客相手にトンパ文字を書いて日銭を稼ぐようになっている。儲からなければ、かれらもまた姿を消す。

 恋愛の聖地に訪れる若者にとって、ナシ族文化は、エキゾチズム以外のなにものでもない。こういうときこそ、地域の知識人や為政者の手腕が試されるのだろう。観光化と守るべき文化との区別をしながら、バランスのとれた発展をどう展開出来るかだ。この賑わいはいずれ終わる。中国もいずれバブルが弾け、高齢化社会がやってくる。かつて日本の多くの観光地が衰退していったように、麗江も閑古鳥の鳴く日がくるだろう。私たちが毎年訪れて調査しているナシ族文化が本当の意味で脚光を浴びるのはそういうときだ。

 昆明では、雲南大学で、中国、韓国、日本の民俗文化研究者による東アジア民族文化国際シンポジウムが開かれ、わたしも日本の研究者の一員として参加した。

 韓国は延世大学の研究者で、ほとんど中国語が出来る。従って発表は全員中国語。日本の研究者は発表のときに中国語への通訳がついた。わたしも発表は中国語に訳してもらったが、聞いているときは通訳はつかない。それが困った。中国語のレジュメがあるので、なんとなく概要はわかるのだが、細かなところはわからない。私はこのような国際シンポジウムには出られないと今更ながら痛感した。

 昆明で四泊したが、宿泊費は雲南大学が負担。国から援助が出ているらしい。中国も豊かになってきた。来年は韓国でやる計画らしい。再来年は日本で、ということになったらどうすると我々は心配した。交通費は自腹だとしても、宿泊費を負担するほどのお金は私たちの学会にはない。そんな心配を抱えながら、日本に戻ってきた。

 奥さんの姪が北九州で夫婦でガラス工房をやっていて、ガラスの器やオブジェを創作している。時々個展をやるのだが、今度、台湾の台北で個展を開くというので、私ども夫婦と、姪夫婦の親たちとその個展を見に、観光をかねて台湾に行くことになった。中国から帰って一週間後三泊四日の台湾旅行である。わたしには初めての台湾で面白かった。台北は一見中国の街と変わらないが、中国よりは穏やかな感じがする。日本人も多く、日本語も通じたりするので、中国より親しみやすい。

 東山彰良の小説『流』を読んでいたので、台湾は行ってみたいと思っていた。ちなみに『流』は抜群に面白い。中国と日本に翻弄されてきた台湾の人たちの悲喜劇が、エンターテインメントとして実によく描かれている。

 個展を開いている所は、美術出版を手がけている出版社が経営しているギャラリーで、台北の繁華街にある。そのギャラリーの若き社長は日本に留学たことがあって日本語が話せる。その社長の父親は画家で、水墨画風のタッチで、台湾の自然や漁村の生活を描いている。その個展を国立歴史博物館で開いていた。たまたまギャラリーで画集を見て気に入り、その個展を見に行った。

 台湾で感じたことは、いろんな意味で広くないということだ。大陸のあの荒涼とした広大さがない。人のつながりも、文化の種類や、その歴史も、空間に規定される精神性も、コンパクトで親しみやすい気がした。短い期間あちこち訪れ、何人かの人と会っただけだが、そんなふうに感じた。観光客向けの雑貨店の中には、フェアートレードを掲示する店もある。反原発のポスターを貼ってある店もあった。中国にはまずない。その点だけでも、中国の社会より成熟している印象を受けた。  

 台湾から帰ってきて、相変わらず雑務や後期の授業の準備で忙しい。

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