iPS細胞と『老人と宇宙』2012/10/21 23:59

 学園祭が今日で終わる。古本市も無事終了。売り上げは去年を越えた。読書室委員会の催しだが場所があまり良いところではなく来場者数も少なかったような気がするが、それでも、けっこう売れたので、結果オーライである。私の古本市のための読書も少しは役にたったようだ。これで、私の古本市のための読書も終わりである。ホッとした。

 学園祭は二日間だったが、天気もよく盛況だった。私は、学園祭の様々な企画展示やパフォーマンスを評価する係になってしまったので、スタッフのおそろいのTシャツを着て、あちこち見て廻った。優秀な企画を表彰するためである。読書室委員有志の企画を推薦したいところだが、身内の企画なのでさすがに遠慮せざるを得ないのが残念。

 それにしてもここのところ何かとイベントだらけで忙しい。昨日はS先生の古希記念論集出版記念パーティに出る。国学院大学で行ったのだが、それにしても国学院大学の立派さよ、いつのまにこんな高層ビルやお洒落な建物が建ったのだ。同じ都心の大学としてうらやましい限りである。今日は、私が二十代後半に入った大学二部の同窓会。読書室委員有志の展示会場の片付けを少しばかり手伝い、お茶の水の駅前の居酒屋に駆けつけた。

 私は同級生より10歳年上であったから今みんなは五十代前半と言ったところか。読書会をやっていたメンバーが10人ほど集まる。卒業以来だから30年ぶりに会った連中ばかりだ。やはり懐かしい。あの頃、私は勤労学生で、本もよく読んだし勉強もした。そんな時のことが思い出された。

 明日からは別な忙しさで、たぶん息つく暇はなさそう。今度の週末は学会大会と研究会。論文も今月末に1本。11月は論文1本と短歌時評1本。11月の土日は推薦入試や学会と研究会でほとんど埋まっている。

 山中教授の特集番組を見る。長期的な目標をたて、がむしゃらに研究すること。地道な実験を積み重ねて、予想外の結果であってもむしろ好奇心を持って受け止めろという。一応研究らしいことをしている身として、理系と文系の違いはあれ、突き刺さってくる言葉である。がむしゃらであったか、と問えば、時々手を抜くなあと反省。

 山中教授のノーベル賞が異例の早さで決まったのには、世界各国からの推薦があったからだとインターネットのニュースで伝えている。NHKの番組を見ていたらその理由が分かった。世界中の製薬会社、ベンチャー企業が、研究者と手を組んで、iPS細胞を使った新薬開発や治療法の開発をしている。その開発に膨大な額の投資がつぎ込まれ、あるいは、投資を呼びかけている。研究者がノーベル賞は投資の追い風になると語っていた。つまり、巨額の投資の保証としてノーベル賞が必要であり、そのために推薦が世界中から集まったということだろう。それだけの巨額のお金を動かす力が山中教授の発見にはあったというわけだ。

 古本市の為の読書で、SFだがジョン・スコルジーの『老人と宇宙』の三部作を読んだ(四作目の「ゾーイの物語」は読んでいない)。いずれも★★★☆。このシリーズもののアイデアは、75歳の老人が、自分の細胞で培養された新しい二十歳代の身体に生まれ変わり兵士として宇宙戦争に赴くという話しである。また、特殊部隊というのがあって、この部隊の兵士は、死んだ人間の細胞から培養された、ずば抜けた身体能力を持つ人間として作り出されたものたちである。

 老人の兵士の生存率は四分の一。つまりほとんどは戦死するが、それでも、兵士に志願しなければただ老いて死んでいくことを考えればこの死亡率はそれほど高いわけではない。それが老人を兵士に志願させる理由である。

 このSFの面白さはこのアイデアにあると言って良い。実は、最初の「老人と宇宙」が出版されたのが2005年。山中教授がiPS細胞を発見した時期である。「老人と宇宙」の、細胞を培養して兵士の身体を作るアイデア、iPS細胞を使えば実現できる気がする。スコルジーが iPS細胞を知っていたとは思えないが、それ以前にES細胞は知られていたから、その種の知識で書いたSFだろう。それにしても、この「老人と宇宙」とiPS細胞発見とが時期的に重なるのは、偶然とは思えない。iPS細胞の発見は、むしろ、小説世界ではない現実の世界がSFの時代に入ってしまったということではないだろうか。