韓流多重人格もの2020/07/25 17:35

 韓流ドラマでジャンルというところまでいってはいないが、多重人格をテーマにしたドラマがある。「ジキルとハイドを恋した私」(2015)と「キルミー・ヒールミー」(2014)で、この二作はけっこう面白い(他にもあるかも知れないが観ていない)。

「ジキルとハイドを恋した私」は、二重人格を持つ男に恋するヒロイン(サーカス団の団長)の物語で、二重人格をヒョンビン、ヒロインをハン・ジミンが演じている。そっくりな双子が一人の女性をめぐってという設定はありがちだが、これは、一人の男の二つの人格が一人の女性を取り合うという設定で、このアイデアよく考えたなと感心させられた。ヒロインは二人の男と付き合っているのだが、実は一人だと言うことに気付かない。当然、二人が一人だと気付いたときこの物語は終わる。どちらの人格が残るのか、どちらの人格が恋に勝利するのか、観客はハラハラしながら目が離せないということになる。このような奇想天外なアイデアを生み出す脚本家の想像力は、日本の漫画のバラエティに富んだ自由奔放なストーリー性にたぶん刺激を受けているとおもわれるが、たいしたものだと思う。
 このドラマ、ヒョンビンの演技がとてもいい。「シークレットガーデン」では、心が恋人と入れ替わってしまう役を演じて、男から女性に移り変わる人格変異を上手く演じていたが、ここでも二つの人格を巧みに演じ分けている。ヒロインのハン・ジミンも悪くはない。地味だが意思をしっかりと持った女性という役どころが似合う女優。ハン・ヒョジュも同じタイプなので、私は時々二人の区別がつかなくなるのだ。

 「キルミー・ヒールミー」は、多重人格(七つの人格を持つ)を持つ財閥の御曹司(チソン)と彼を支える精神科医のヒロイン(ファン・ジョンウム)の物語。この物語も、七つの人格を持つ御曹司の苦しみと、主治医となって御曹司を助けていくヒロインの御曹司への愛情が物語の主軸になる。これも感心するくらいアイデアが斬新。七つの人格を演じるチソンがまたいい。女子高生の人格に変わるときはおもわず笑ってしまった。チソンの代表作と言っていいだろう。チソンはたくさんの作品に出ているが、私が観たなかでは「ラストダンスは私と一緒に」(2004)「ボスを守れ」(2011)が印象に残っている。
「ラストダンスは私と一緒に」は記憶喪失もの。記憶喪失は韓流ドラマの定番だが、数ある記憶喪失もののなかでもこの作品はよく出来ている。「ボスを守れ」はわがままで成長出来ない子供じみた人格の御曹司(チソンが得意とするキャラ)を元ヤンキーののヒロインが立ち直らせるというラブコメ。ヒロインはラブコメの女王と言われているチェ・ガンヒ。けっこう面白い。ちなみにチソンのライバル役がジェジュンで、ジェジュン命のうちの奥さんが観ていたので私も観たドラマである。

 ファン・ジョンウムも好きな女優の一人。「ジャイアント」の主人公の妹役を演じていてそのういういしさがとても良かった。最近はすっかりラブコメの女優になってしまった。「秘密」(2013)でチソンと共演し評判になった。ちなみに「秘密」は復讐劇のジャンルにはいるが、私はこの手のドラマが苦手である。最初に主人公が理不尽にひどい目にあう。韓流はその理不尽な仕打ちでどん底に突き落とす主人公の不幸をこれでもかと徹底して描く。私はその主人公が可哀想で観ていられなくなるのだ。「秘密」は復讐の要素がなく、ヒロインを不幸に付き落とすだけの(最後にハッピーエンドではあるが)ドラマ。名作だが、ファン・ジョンウム演じるヒロインへの仕打ちがあまりに可哀想で観ていられなかった。

 どん底に突き落とされた主人公が復讐するという韓流お得意のドラマはいまだに量産されているが、そういうわけで私はあまり観ない。主人公が悪い連中にひどい目にあう場面について行けないのだ。あとで復讐すると分かっていても、罠にかかったりいじめられたりする可哀想な場面がこれでもかと繰り返されることに、こちらの心がついて行けない。だから、この手の復讐ものはあらすじを最初に確認して、主人公の無事を確認してから(主人公が死んだらドラマが終わってしまうので無事に決まっているのだがそれでも確認せずにはいられない)観ることが多い。無論、そうするとドラマの楽しみが半減するが、私の心の安定の方が優先する。それにしても、人間の弱さや残酷さや悪をこれでもかと描く韓国の脚本家の描き方は、すごいの一語に尽きる。その背後にある韓国社会の精神性に興味が湧く。