続続古本にするための読書2014/10/03 14:30

長野まゆみ『野川』
森沢明夫『虹の岬の喫茶店』
小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』
恩田陸『月の裏側』
歌の晶午『葉桜の季節に君を想うということ』
井上夢人『魔法使いの弟子たち』上・下
宮部みゆき『龍は眠る』
佐々木譲『笑う警官』
伊坂幸太郎『グラスホッパー』
 
 以上の冊数でいくと10冊を一週間で読破。正直頭が疲れた。
 『野川』は、私たち夫婦が最初に住んだアパートが小金井の野川沿いにあった。この小説、その野川が舞台になっている。懐かしい風景が出てくる。国分寺崖線である河岸段丘とその湧き水を水源とする野川が主人公と行って良いくらいの物語。野川に惹かれて読んだ。内容は、読書感想文コンクール課題図書と帯にあるが、それにふさわしい、少年少女のアイデンティティ探し物語。確かに、子供向けとしては良い本だなあと思う。
 『虹の岬の喫茶店』は大人向け読書感想文コンクール課題図書ということになろうか。吉永小百合がこの本に感動して映画になった。なるほど、老婦人が主人公の暖かいメルヘン風小説。感動するほどではないが、乱読の頭を休めるには良い本だ。

 『猫を抱いて象と泳ぐ』は、身体の成長を自らの意志で止めたチェスの天才の悲しい物語。この題名に惹かれた読んだ。よくまあこういう物語を思いつくなあ、とその虚構のうまさに感心。モデルが本当にいるのか、と思わせるくらい上手く書かれている。ただ悲しい物語である。『月の裏側』はSFかと思ったが、ただのホラー小説だった。何がなんだかよく分からないホラーであって、どうもすっきりとしない終わり方だ。これは読まなきゃよかった。

 『葉桜の季節に君を想うということ』は作者に騙される類いのトリック小説。所謂推理小説の犯人捜しのトリックではなく、必要な情報を与えずに物語を展開し、最後にその情報を与えて、今まで読んで来た世界とは全く別の見方が成立するよ、と驚かす、最近流行のトリック小説である。「スパイ大作戦」というドラマがあったが、映画「ミッションインポッシブル」でもいいが、スパイチームが倉庫の中に列車のセットを作り、ある人物をそこに乗せ本物の列車に乗っているように思わせる、という場面がある。これとよく似ている。作者がスパイチーム、だまされるのは読者というわけだ。最後に、いままで信じていた世界は実はセットで本当は違う世界にいるよ最後にばらされたとき、う~んとうなるか、腹をたてるかは、作者の腕次第と言うことだ。この小説、腹をたてししなかったが、うならせるまでいっていない。

 『魔法使いの弟子たち』上・下は、『ラバー・ソウル』が面白かったので続けて、井上作品を読んでみた。『ラバー・ソウル』は典型的なスパイ大作戦ふうトリック小説で、かなら感心したが、こっちは正統なSF風パニック小説。ウィルスが超能力者を生み出すという設定が面白い。ただ、アメリカの超能力もののテレビドラマシリーズのように、実に多様なエスパーたちが現れるというわけではなく、そこが物足りないといえば物足りないが、最後はとてもうまく終わっている。

 『龍は眠る』は新作ではないが、宮部みゆきの超能力ものなので読んでみた。これは期待したほどではなかった。超能力を持った少年の苦悩を描くことに主眼があって、アクション風な展開を期待していた私としては当てが外れたが、そこは宮部みゆきで、さすがに最後まで飽きさせない。『笑う警官』は佐々木譲の名作でこれも新しくはない。もらった古本にあったので読んだがさすがに飽きさせない。佐々木譲の警官ものを読むと北海道警察はかなりひどいところだと思ってしまう。『グラスホッパー』は殺し屋たちの物語で、いつもながらのあり得ない設定でぐいぐいと引っ張る伊坂ワールド物語。これはなかなか読ませる。ブラックなおとぎ話として読めなくもない。グリム童話初版に「子供たちが屠殺ごっこをした話」があるが、これは子供達か肉屋と豚になり肉屋が豚になった子供を殺してしまうというもので、後半は、それをみた家族も死んでしまい、みんな死んじゃうと言う悲惨な話だ。たぶん、この民話、酒場などで大人達は笑い話として楽しんだのではないかとも思える。みんな死んじゃうという話は、語り方では笑い話になる。『グラスホッパー』にはそんな感じがある。

いよいよ学園際での古本市2014/10/18 00:01

 上橋菜穂子の「精霊の守人」シリーズ10冊を読破。新刊を古本にして、明日からの学園祭の古本バザーに出品。それから、森絵都の「カラフル」も読了。これも古本へ。「精霊の守人」シリーズは、なかなか読み応えがあった。私は「獣の奏者」シリーズよりもこっちのほうが好きだ。

 このシリーズの面白さは、国家対国家の対立が描かれていることだろう。帝国主義の国、鎖国政策を取る国、外交で切り抜ける国、強国に対抗する国家連合と、その世界の様相は帝国主義的世界の歴史がシンプルに踏まえられている。一方で、あの夜(ナユグ)とこの世(サグ)との対称的世界がきちんとしていて、呪術が大きな力を持つ。

 リアリティのある世界観のなかに、ファンタジーが実に巧みにはめ込まれている、その絶妙さがこのシリーズの面白さだろう。例えば魔術は国の政治を根底から支配する力を持たない。が、王はそれを無視はできない。魔術で世界を支配しようとする物語(神の守人)もあるが、結局失敗する。世俗的な権力や政治の論理は現実の国家を支配し戦争の勝敗を決着させるが、あの世(ナユグ)の力はそれを覆すことはできない。こういう基本的なパワーバランスを保った上で、国の運命を背負った皇子チャグムや、人間の情のために命を賭ける女性用心棒バルサなどの冒険物語が展開する。どの物語も、物語の王道である異界へあるいは戦争へと「行って」そして死に直面するが生き返って「帰る」物語である。個々の「行って帰る」物語は終わるが、世界観を構成する国の物語は、不安定のままであり、終わることはない。だから、物語は何処までも続くということになる。

 なかなかよくできている。読み終われば続きが読みたくなる。こうやれば何巻も続くシリーズもののファンタジーが書けるのだと妙に納得した。文章で関心したのは、戦闘や武闘の場面の描写が実にリアルでシンプルに書かれていることだ。とてもイメージしやすく説得力がある。あとがきで実際に武道を習っていたことがあるということが書かれていて納得した。創造だけでは身体の無駄のない動きは書けないだろう。登場人物の心情描写も無駄がなく、味わいのある日本の時代小説を読んでいる気になる。今回の古本にするための読書は、上橋菜穂子をほぼ読了したという意味で、疲れたがとても満足であった。

 最後に読んだのが「カラフル」で、これもなかなかよかった。ネタバレしてしまうとおもしろみがなくなる物語だが、人間はみんな欠陥を抱えながら一生懸命生きているという、この種の小説にはよくある真面目な主張を、うまく伝えている小説だ。上橋菜穂子も森絵都も児童文学出身である。日本の児童文学の作家もなかなかのものである。

 明日から学園祭で、読書室委員の学生達による本の展示や古本バザーがある。盛況で逢ってくれればいいのだが。今回は、割り当てられた教室が広すぎて、しかも、机椅子が固定式で展示にはむかない。が、それでも、お薦め本を紹介するビデオを学生が作りその映像をプロジェクターでずっと映すことにした。そうやって学生もいろいろと工夫している。この企画を始めた数年前は、私ががんばったが、今は、学生たち積極的にやっている。ようやく、らしくなってきたなというところである。

ムーミンを読む2014/10/25 15:55

 学園際が先週終わり、わが読書室の古本市は、古本市始まって以来の売上高を記録した。全学ユニセフに寄付するのだが、私の古本市のための読書もそれなりに役だったということだ。私の出品した本がかなり売れた。当然である、ほとんど新品と同じだから。

 ちょっと一息というところだが、仕事は山積である。こんど短歌評論集を出す予定。その初校校正がけっこう大変である。実は、短歌関係の本はほとんど山小屋に置いてある。従って校正が出来ない。そこで、月曜日は学園際のあとの休校日なので日帰りで長野まで資料を取りに行って来た。ところが、帰って来て二冊ほど持って来てないことがわかった。こういうぽかはいつもである。さあどうする。また行くというわけにもいかない。交通費だけで馬鹿にならない。そこでアマゾンで調べたら古本扱いで一冊600円程度で手に入ることかわかった。早速注文。こうやって本が増えていくのである。

 金曜日は「月光の会」の黒田和美賞の選考会。お二人を選んだ。好対照の作風の人である。そのうちのお一人は徹底して反戦、反権力を直接歌い込むという作風で、二〇年以上その作風を一貫して続けている。これはこれですごいなあと思わせる。ここまでぶれずに一貫するのもすごいことで、今の時代注目されるべきだというのが選考理由であった。これはこれで短歌表現の許容力を感じさせる。

 先週からトーベ・ヤンソンの「ムーミン童話」シリーズを読んでいる。「ムーミン谷の彗星」「ムーミン谷の夏祭り」「ムーミン谷の冬」「小さなトロールと大きな洪水」を読んだ。今「ムーミンパパ海へ行く」を読んでいるところだ。何故ムーミンを読み始めたかというと、来年、勤め先で、学生と教員が演劇を実演する授業を立ち上げる。その演目として児童文学がいいのではということになった。が、児童文学もいろいろあって、何をえらぶかが難しい。やはり、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」かと候補をあげたが、実は、これは今あちこちでやられているらしい。

 特に3.11大震災以降、死者たちを列車の乗客として登場させるというのが多いらしい。実は、そういうことも含めて改作して上演と考えていたのだが、さすがにみんな同じことを考えていてすでにあちこちで上演されているらしいのだ。それで、候補としてでてきたのがムーミンなのである。

 私は、原作を読んだことがないので、少し不安だったが、原作を読みすすめていくと、この原作けっこうシリアスな内容なのである。どの作品にも、必ずと言っていいほど、自然災害などの危機がまず設定される。「ムーミン谷の彗星」は彗星が地球に衝突して地球は滅びるかも知れないというなかで、ムーミン谷の連中の、脳天気とも言える不思議なドラマが展開する。危機に対して団結してまとまるなんてことは一切無い。そこがムーミン谷の面白いところである。

 みなそれぞれ個性的で、優しい。しかし、厳しい自然や洪水などの災害は容赦なく来る。何とかみんな生き延びる。私が好きなのは「ムーミン谷の夏祭り」で、ムーミン谷は洪水に見舞われ、ムーミンの家は洪水で押し流される。ムーミン谷に劇場が流れてくる。そこで、ムーミン一家はその劇場で演劇を始めるのである。初めて演劇を見るムーミン谷のものたちは演劇と現実の区別がつかず、大騒ぎになる、という話である。

 こういうストーリーを読むと、けっこう演劇向きではないかという気がする。むろん、このままではなくかなり改変していく必要があるだろう。脚本は学生が書くのであるが、女子大なので、みんなが演じやすいキャラクターが揃っていて、案外にいけるかもしれない、などと読みながら感じているところである。「銀河鉄道の夜」はどう演じても深刻で暗くなるのは目に見えている。とすれば、ムーミンの方が楽しくそのうえシリアスな内容もあり、というように展開出来るかも知れない。まだ決まったわけではないが、どうなるかである。