「項羽と劉邦」観終わる2014/07/27 00:36

 ようやく、前期も終わりに近づこうとしている。暑くてたまらないので、土日は山小屋へ避難。さすがに涼しい。ここで仕事である。雑務はそれなりに多い。といっても久しぶりの休みで、ここ一ヶ月、土日含めてほとんど休む暇がなかった。

 夏はいつものように中国への調査に行くが、今回は二週間ばかりなのでいつもよりは長くなる。科研費で行くのだが、その書類作りが面倒で大変である。税金で行くということなので仕方がない面もある。あの理研のように何億も使ってあげくに論文撤回みたいなことはわたしたちにはあり得ない。だいたい、費用といってもほとんどが中国への交通費と宿泊代、現地での通訳代くらいのものである。そんなに予算が多くないので、自腹での出費も覚悟している。私たちの仕事は、これまであまり関心が向けられてこなかった、小数民族の口承と文字との関わりに焦点をあて、その資料を集めるという作業なので、画期的な発見などということにはならない。そこが、文系の研究らしさであり面白いところである。

 先日、「項羽と劉邦」のDVDを見終わる。全40巻(80話)であった。中国の長編歴史ものは、だいたい観ている。といっても、他には「三国志」「曹操」「創世の龍・大唐建国記」「孫子兵法」だけだが。中国の面白い戦記ものは、やはり、「項羽と劉邦」と「三国志」に尽きるであろう。「項羽と劉邦」は日本で言えば秀吉の天下取りの物語に匹敵すると言っていいか。「三国志」ほどのスケールはないが、ならず者から漢の皇帝に成り上がる「劉邦」の物語は、それなりに見応えがある。

 低い身分のものが、才覚と人を惹きつける魅力だけで天下を取る成功譚は、やはり面白い。項羽のような勇猛な英雄が、プライドに縛られ、猜疑心にさいなまれ人心を失っていく様は哀れだが、これもまた物語の常道である。「三国志」もそうだが、「項羽と劉邦」も人間がよく描かれている。戦争場面は同じ映像の使い回しだが、人物の描き方だけはなかなか凝っていた。「劉邦」の役者は最初は老けすぎて違和感があったが、次第に馴れてくるとはまっていった。

 しかし、なんといってもはまり役は、劉邦夫人の呂雉と韓信である。呂雉はさんざんに辛い目にあいながら皇帝の后となり、残虐な粛正を行う。その気丈さと怖さをにじみ出していた。韓信は統一後呂雉に殺されるのだが、何を考えているのだかわからない、ただの軍事おたく的な感じがよく出ていた。項羽は、「三国志」で呂布を演じた役者で、ほとんど呂布と同じ。もう少し知性があった方がいいだろうというのが感想。

 こういう歴史時代劇の面白さは、民主主義的な人間、つまり自由であると考えている人間が一人もでてこないところにある。また、資本主義社会の欲望もない。これだけで充分に面白いのだ。描かれる人間は、義とか、主従の掟とか、あるいは宿命とかいったものを背負いながら、一方で、情に縛られる。戦争だから命のやりとりがあり、合理的に振る舞わなければ負けてしまう。だが、人そのものはそれほど合理的に生きていない。合理的であろうとした信長は結局殺される。結果のわかっているこういった歴史ものには、どういう振る舞い方、生き方をすれば、歴史の勝利者になれるのだろうかという関心に支えられているのだろうと思える。が、実際は、ほとんどは勝利者になれなかった人物群で満ちているのだ。むしろ、そちらに共感を感じる、という読み方もまた多いのに違いない。私などもそうだ。

 「キングダム」の35巻が出たので、買って読了。こちらは、単純に、信はこれからどうなるのだろうという興味。いずれ信の属す秦は滅ぶ。が、信が何処まで出世しどんな英雄になるのか知りたい。史実でない歴史ものの面白さである。