勘違いなら困ったことだ…2013/12/09 00:53

 土曜日は、短大時代の教え子が、学会で研究発表ということで聞きに行く。さすがに教え子の発表ははらはらする。編入して四大に行き、研究者を目指している。短大で古事記の授業をしていたときの学生だから、少しは影響を与えたのかも知れない。発表については私が指導しているわけではないので、余計大丈夫かなあという思いがあった。

 が、発表の態度はたいしたものだった。落ち着いて、パニックにならずに厳しい質問に良く耐えていた。発表は、厳しい質問の集中砲火にあって撃沈というところだが、最初の学会発表は、まあこんなものである。資料がまだまだ足りないし論理も甘い。ただ、目の付け所は悪くはない。良くも悪しくも如何にも新人の論らしさが出ていた。批判する側も、おおかたは新人を潰さないような配慮があった。一人だけ容赦ない批判をした大学院生がいて、心配したが、何とか耐えたようだ。結構打たれ強いなと感心。

 懇親会を途中で抜け出して、次の忘年会に向かう。かつての学生時代、学生運動に明け暮れていたころの同志の忘年会である。遅れて行ったが、いやはや40名を超えるもう老人と呼んでもいいような連中が、楽しげにあれこれと酒を飲みながら話してる。聞けば、40年ぶりとか45年ぶりに会ったという人もいて、懐かしさで話が盛り上がっているようだ。何となく全体がくすんでいるのは、男ばかりだし、もうリタイアしている人たちばかりということもあるだろう。そろそろ老人会という感じである。

 これだけ集まったのは、昔のいろんなわだかまりが吹っ切れたというとこもあるだろう。むろん、そうでないものもいる。学生運動が終わっても、40年間、毎月一度集まって、互助会だと言いながら飲み会をやっていた。ある時代は数名しか集まらなかったのだが、ここ数年、忘年会は、かなり集まるようになった。学生運動後、みんなそれなりに後ろめたさを抱えて社会に復帰している。生活に追われて、過去のことを振り返る余裕も無かっただろう。それが、ここにきて、定年になり、若い時の仲間達とふと話をしたくなった、ということか。いろいろわだかまりを抱えても歳月がそのハードルを下げてくれる。反原発や、秘密保護法案など、とりあえず共通して話せる話題もある。

 私と言えば、まだ現役で、仕事に追われ疲れ果てている。みんなとつきあって議論するほどの英気がない。情けないが、「秘密保護法案まったくこまったもんです」と適当に、相づちを打ちながら、私より年寄りの話をだだただ頷いて聞くばかりだ。

 それにしても秘密保護法案は困ったものである。かつての、国家の秘密主義は、帝国主義国家間の競争(戦争)という側面があった。米ソの冷戦がその緊張関係を引き継いだが、冷戦が終わると、とりあえず、世界の国家はデタントとともに情報公開の方向に流れた。

 その流れをとめたのは、アメリカの9.11テロと、中国の軍事力強化だろう。いずれも、米ロ、日欧による、政治、経済支配への反動として生じたものだ。9.11のとき、中国の民衆が手をたたいて喜んだことが、そのことをよくあらわしている。

 が、かつての帝国主義間戦争や米ソ冷戦と違うのは、徹底したグローバリズム資本主義の中では、情報公開は宿命でもあるということだ。国家をまたぐグローバル企業の命は情報であるが、資本主義は一企業が情報を抱え込んでしまうと衰退する。むろん、情報を先に取得することが利益を生むが、利益を生むには、その情報を商品という形で公開しなければならない。その時点で、情報は秘密でなくなる。これが資本主義の論理であり、資本主義は、秘密を保持し続けられないし、保持しつつけるシステムを嫌う。だから、資本主義国家は民主主義を取り入れるのである。商品の情報と国家安全上の情報は違うという意見もあるだろうがそれは違う。例えばミサイルは、ほとんど家電や自動車部品などの技術開発に支えられた先端技術で作られているという。つまり、商品開発の技術が安全保障上の秘密に指定されたとき、そこで技術開発は止まる、というジレンマを抱えることになるのである。

 現代の、日本の秘密保護方案の背景にあるのは、アメリカの軍事的優位を守るというその一点にあると思われる。つまり、9.11と中国の台頭は、アメリカの世界唯一帝国主義の基盤を脅かし、その軍事的優位性を危機にさらしている。アメリカは、自分が危機になると世界も危機になるとの思い込みから、せめて、軍事や情報の優位を永続化するために、機密保護を重視し始めた。これは、共和党のブッシュが始め民主党のオバマが引き継いだ。共和党のティーパーティを除いて、共和党も民主党もアメリカ帝国主義者だから、大きな国家を維持するために、情報独占し、危機をもたらす勢力、テロリストと中国に、情報が漏れないように、関係諸国、特に日本に圧力をかけたというわけだ。

 日本はそれにのった。中国との関係でアメリカに忠誠を誓わざるを得ないからだ。だが、この機密保護の方針は、矛盾を抱えているのである。アメリカの世界での優位性は、圧倒的な情報を蒐集し、それを世界に公開していくということにある。商品化として、そして情報公開もすすんでいる国である。それが、アメリカの商品開発を支え、アメリカの国力を支えている。が、秘密主義は、その動きを止める。だから、反発が生じ、内部告発者が必ず出てくるのである。

 これは、日本についても言えることだ。ただ、心配なのは、従来の公務員法でも秘密は保持出来るはずなのに、あえて新しい法案を作ったのは、アメリカへ忠誠心を示すためだと、政治家や官僚が思えばいいが、もし、国家には秘密が必要だなどと時代がかった国家観を持っているとすると、それが危ない。何故なら、今時それは妄想だからだ。中国が必死になって、国家主義路線をとるのは、そう言い続けないと、国家が瓦解しかねないからだ。それくらい、中国は様々な矛盾の上にある国である。

 中国は日本よりはるかに秘密主義の国であるが、それでも、政府要人のスキャンダルがダダ漏れしている国である。ひょっとすると日本より、情報公開は(違法な形で)進んでいるかもしれない。日本は中国ほどひどくはない。それなのに、国家主義路線をとるのは、アメリカへの忠誠でないとすれば勘違いである。勘違いだとすれば本当に困ったものである。

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