センスあることば2011/04/23 01:45

 管首相を見ていると、この人はほんとに嫌われているのだなあとつい同情したくなる。懸命にやっているのだろうがこれだけみんなからぼろくそに言われる首相も珍しい。こういうのを人徳のなさというのだろうか。というよりは、スケープゴートとしてとても適任の人なのだと思う。みんなこの事態に苛立っていて、どうしていいかわからない。自然の暴威に文句を言えないから、政治に文句を言うしかない。政府の対策が後手後手だからみんな苦しんでいるんだ早く辞めろ、と八つ当たりする。そうやってみんなの不満のはけ口になっているのが管首相なのだろうと思う。

 確かにもっとうまく出来ないのかと思うところはある。が、他の人が首相になってもっとうまく出来るとも思えない。原発にしろ想定を超えた事態であって、今の事態がうまくやっている方なのか、そうでないのか、誰にも判断できないのではないか。

 避難地域の確定の問題でも、最悪を想定して、徹底して避難させるべきだ、というのか、それとも、現状の放射線の情報を分析してぎりぎりまで住民が居住できるよう避難させるべきではないというのか、政府も、マスコミも、被災者自身も判断出来ないでいる、というのが実情ではないだろうか。政府は最悪を想定するという方向に舵を切ったが、それでも生ぬるいという批判は起きるだろう。

 ただ、管首相を見て思うのは、この人のことばが貧しいということである。ボキャブラリーがないとか、弁舌が下手だということではない。ことばに表情、例えば愛嬌といったものがないのである。むろん、これは管首相だけではなく最近の政治家に言えることではある。

 民主党も自民党も若手の政治家に弁護士や元キャリア官僚が多い。だから、話しに躊躇がなく、論理的に話しを組み立てて、そつなくしゃべる。話しの中に、ことばの効率性を損なう要素を排除することに優れた人たちである。こういう人たちの話を聞いていると、まだ、紋切り型で意味不明の言い方しか出来ない旧い政治家のことばがなつかしい。彼らはことばを補う愛嬌があったし、腹芸ともいうべきパフォーマンスがあった。

 管首相も含めてことばにセンスがない。必要なことを過不足なく話してはいるが、気遣いや自分の言いあらわしがたい気持ちなどが顔を出すことがない。これはメディアの記者にも言えるし、テレビに出てくるコメンテーターにも言える。気持ちを伝えようとするときは、ただ悲しんだり、泣いたり、怒ったりというように感情をストレートにあらわせばいいと思っている。

 管首相がみんなから攻撃されるのは、やはり、そのことばの問題であるような気がする。とても俗っぽい言い方をすれば魂が込められたことばではない。感情を豊かに話さなくてはならないと言いたいわけではない。センスという言い方が適切かどうかは問題あるが、やはりセンスを失っている。感情がどうしても直接あらわれてしまう場面ではそれをうまく回避しながら話すセンス、どうしても事務的で冷たくなりがちな話しには、こころを こめるセンス、そういうセンスの文化をみんな忘れているのか、失ってしまったのか。最近テレビを見るに付け、センスのないことばがストレートに飛び交っていて気が滅入ってしまって、あまり見ていられないのだ。

 鷲田清一の「言葉の幸不幸」というエッセイがあるが、そこで詩人の佐々木幹郎が、阪神淡路大震災で夫を亡くした被災者のことばを記録していることを紹介している。

 「わたしが二階にいまして、一階にいた主人が、二階に妻がいます、助けてくださいと 叫んでいたんです」
  彼女はそこで一呼吸を置いた。
 「そしたらな、二階が一階になりましてん」
  佐々木さんはこの言葉にふれて言う。「母音の多い関西弁は悲惨な体験を、おっとり した表情で伝える。余裕すら感じさせる間合いがある。そのことによっていっそう、悲 惨さのリアリティが満ちる」、と。

 私のいうセンスとはこういうことばのことだ。鷲田清一は次のようにも述べている。

 沈黙のあと、もし妻が亡くした夫のことにふれて「(あのときもう、じぶんもいっしょに)あっさり逝(い)てもうたほうがよかった……」などと漏らせば、聴くほうが辛すぎて、二の句を継げない。

 今、聴く方が辛すぎることばばかりである。むろん、そういうこことばはそれはそれで感情を解放し立ち直っていくきっかけである。が、たぶん、被災の現地では、このようなユーモアのある、あるいはセンスあることばがきっと多く交わされているに違いない。が、マスコミはそれを拾わない。拾うのは、こちらが聴くことの辛くなることばばかりだ。取材する方にセンスがないのだ。

 でも、まだセンスあることばに気づくのには時間がかかるのかも知れない。それだけリアリティがありすぎるということであろう。ただ、政治家のことばは少なくともセンスが欲しいものである。

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