新しいアニミズム2011/03/04 23:55

 環境問題の続きです。

 アニミズムは自然保護の思想たり得るのか、ということが、環境問題を文化論の問題と関わらせるときにテーマとなるだろうと思われる。

 自然保護の最も進んだ思想は自然中心主義であり、人間に権利があるように自然にも権利を認めようというものである。つまり、ゴミはまだ使えるからもったいない、だから捨てるなではなくて(これは人間中心主義)、使えるゴミを捨てるのは自然に対する犯罪である、と考えるのが自然中心主義である。

 環境破壊に対して、自然に訴える権利を認めようという考えはすでにある。これらは、自然を人間の暴走を抑える人格を持った存在としてみなす思想であり、ある意味で新しいアニミズムと言えるのかも知れない。加藤尚武は、もともと、近代における人間の権利という概念そのものが、近代的なアニミズムなのだという(『環境倫理学のすすめ』)。つまり、自然に霊魂が宿るという思想から脱却した西欧は、それでも人間に霊魂が宿るというアニミズムを脱却出来なかった。その霊魂が近代的な装いとして権利となったのだという。例えば、個人が死んでもその個人の権利、財産とか所有権とか名誉とか、そういったものを人は尊重する。それは、人が死んでも霊魂が残る、ということと同じなのだというのである。この権利の概念をアジアの社会が受け入れたのは、もともとアニミズム的思考だからというのである。

 面白い考えかたである。自然に霊魂が宿るというアニミズムを脱却できないアジア的世界、つまり、われわれが、なかなか個人の権利を認められないのは、自然とわれわれとが截然と切り離されてないからなのかも知れない。

 さて、自然を神とみなすアニミズムを切り捨てた西欧は、個人の権利の暴走によって、自然破壊に歯止めがきかなくなる。そこで、自然にも権利がある、つまり、霊魂があると言い出した。それが、新しいアニミズム、自然中心主義の自然保護運動というわけである。

 これは加藤尚武の本を読んでの理解だが、自然には霊魂が宿り、その自然と共存してきたわれわれの文化(アジア的文化)は、今、「新しいアニミズム」という視点から見直されている、というのが、環境問題における、アニミズムの役どころ、と言ったところだろう。

 だが、このようなとらえかたは、文化論としては、簡単には乗れない。というのは、新しいアニミズムが、いつのまにか、古代の新しいとはいえないアニミズムを単純に解釈し、複雑で奥深い自然と人間の関係を見えなくしてしまうからである。

 自然に人間を告発する権利を認める、という自然中心主義、新しいアニミズムは西欧から発信されたが、まだ自然そのものに霊魂があるとみなすアジア的アニミズムにどっぷりと浸っているわれわれは、この思想に簡単に乗れるのだろうか。どうもしっくりといかない、というのが大方の感想だろう。それなら、アジア的アニミズムには、人間の暴走を抑える仕組みが内在されているのだと見なすのか。それとも、そんなものはないのか、ないとすれば、アジア的アニミズムはこの問題にどう役立つのか、というようなことを考えなければならなくなる。これは、文化論の思考ではないが、避けるわけにはいかない。

 私なりの答えは、アジア的アニミズムに、人間の暴走を抑える仕組みなどはない、ということである。が、そのことは、人間は自然に対して何でも出来るというのとは違う。人間は自然と、身体的なレベルでもつながっている。そこに、ここでいうアジア的なアニミズムの問題がある。自然開発は自然を傷めて人工物を作る、というように見えるが、その人工物を自然の延長みなせば、開発は、自然の再生産であって、霊魂の拡散を意味するだけである。少なくとも、その程度の柔軟性がアニミズムにはある。

 ただ、度を超すという問題ががある。そういうときに、自然と人間の関係はうまくいかなくなる。度を超して拡張した自然を、自然とみなせなくなる。つまり、身体の延長としてとらえられなくなる。その時、どうなるのか。たぶん、つながっているというある感覚、つまり身体というレベルを失うことではないのか、と思われる。それが「不安」ということではないか。

 新しいアニミズムはこの「不安」への対処として生まれた。が、日本人は、どこまでこの「不安」を持っているだろうか。かなりの自然破壊をやってきた日本人が、それほどの「不安」を持っていないのだとしたら、これは文化の問題である。つまり、日本人におけるアニミズムの問題である。

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