ツェねずみ2010/05/12 11:05

 歯の治療中ということもあってアルコールの飲めない状態が続いているのだが、もともとそんなに飲めるわけではないので、そのことが苦痛というわけではない。むしろ、からだにはいいのかもしれない。ただ、歯の方は深刻で、たぶん20年以上も前に治療し金属をかぶせた歯の根本が炎症を起こした。医者の話では、神経の管をきちんと除去していなかったのでそこに菌がはいりこんで炎症を起こしたのではないかという。治療法は、抗生物質か、それで効かなければ抜いた方がいいという。また歯が一本消えていくというわけだ。こうやって確実に年寄りになっていくわけだが、今はインプラントもあり、抵抗の術はある。ただ金がかかるが。

 連休も終わり授業や研究にと集中しなければならないところである。『七五調のアジア』の原稿が集まり始めている。ただ、一般向けのわかりやすいという目論見とは大分違ってきている。それが不安ではある。考えてみれば、一般向けというのはなかなか難しい。書き手は研究者だから、論理的であることや資料を通して論じることが染みついている。つまり分かりやすく論じることを優先させることに慣れていない。私は、評論も書いているので、分かりやすく論じることは慣れているが、なかなか研究者にそれを要求するのは難しい。集まってきだ原稿を読んでそれを痛感した。レベルの高さをアピールして、何とか刊行できるようにしていくしかないだろう。売れなくても刊行する価値のある本だというところまで持って行ければいいのである。むろん、売れればそれにこしたことはないのだが。

 問題は冒頭のまとめの文章をこれから書かなきゃいけないことだ。連休中に書き始める予定だったが、やはり御柱を観に行ったりしてそんな暇がなかった。時間がうまくとれればこの仕事はそんなに問題ではない。ただ、問題なのは、次に控えている。夏に雲南省で兄妹始祖神話に関するシンポジウムが控えている。わが学会と共催で、それに出席して発表もしなくてはならない。何を発表するのか、これが問題なのである。少なくとも6月末には概要を書かなきゃならない。アイデアはないことはないのだが、それを調べてまとめるには時間が足りないがそんなことも言っていられない。文科長でなくてほんとによかったと今思っている。

 火曜日の授業は朝1限で、9時からである。1年生対象のゼミで、「宮沢賢治」を読んでいる。集英社文庫の『注文の多い料理店』を読んでいるのだが、ここにでで来る話は、どうも情けない奴とかどうしようもない奴が主人公の話ばかりで、つまり、宮沢賢治の皮肉や悪意が感じ取れる話ばかりで、最初は選んで後悔した。編集は安藤恭子で非常勤で来ていただいた先生である。あえてそういう作品を選んだと書いている。例えば「ツェねずみ」は、みんなに親切にしてもらうのだが、うまくいかないと親切にしたもののせいにして「償ってください」としつこく繰り返す。それでだんだんと友達を失っていく。最後に、みんなに嫌われ者のねずみ取りに親切にされ、罠のえさを食べさせてもらえる。親切でやっているので、罠にかかるわけではない。ところが、ある時そのえさが半分傷んでいたので、ねずみは、ねずみ取りに文句を言った。ねずみ取りは抗議されて怒ってしまいその拍子に、ねずみ取りの蓋が閉まってしまった。ねずみはあえなく最後となつたのである。

 みんなで朗読して話し合うのだが、むしろ、こういう皮肉なやや暗い話の方が意見を言いやすいことがわかった。こういう奴いる、というように言えるからでもあろう。ツェねずみはクレーマーだということになったが、一番かわいそうなのではないか、案外素直かも、という意見もでた。例えば他のねずみは嫌われ者のねずみ取りには近づかない。が、ツェねずみだけは、警戒することもなく平気で近づく。疑うことをしない。とりあえず相手に依存して、うまくいかなかったら相手のせいにするという生き方をしてきたからである。ひとをだまして最後にしっぺ返しをくらうという生き方とは違うのである。意見を言い合いながら、ツェねずみのそういうところが見えてきた。実は、このねずみ、反転すれば、宮沢賢治なのかもしれない。宮沢賢治は、いつも相手の立場に立つ。これは依存することと裏表である。そして矛盾が起これば自分のせいにする。これも他人のせいにすることと裏表である。そこまで展開するのは、まだまだ先のことではあるが、こういうちょっと悪意のある童話のほうが面白いということがわかってきた。
  
五月みんな宮沢賢治に出会う

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