臨床的な時代2010/04/03 23:55

 今日はマンション恒例の花見。午前中から夕方までマンションの庭で住人が集まって、桜を賞でながら飲み食いする。私の部屋はイベント係なので、奥さんは大鍋で豚汁の準備をし、私は七輪に炭をおこす係り。

 やや肌寒かったが昨日のような風もなく、良い花見日和であった。全部の部屋が揃うということはないのだが、いつもの人たちが集まってくる。30年目を迎えるマンションで、住人は仲がいい。共同出資で住人達が建て主になって作ったマンションである。当初からすんでいる人はさすがに少なくはなったが、それでも、彼らを中心にこのマンションのコミュニティはしっかりしている。私たちは2年目だが、このコミュニティを楽しんでいる。

 ただ、そんなに部屋が広いマンションでもないので、子供が大きくなれば子供達は独立して、結局親だけが住むということになる。世代はだいたい私たちと同じかそれよりちょっと上といったところで、ほとんどが定年退職している。だから、花見でも話題は自然と老後の問題になるのは仕方がない。このマンションの庭に墓を建てようとか、空き部屋をデイケアの部屋にしようとか、孤独死を防ぐにはどうしたらいいか、一番若い住人が、一人住まいの老人の部屋を定期的に訪れる制度を作ろうとか、冗談半分の話がえんえんと続く。

 若い夫婦もすんでいて、赤ん坊と五歳の女の子が花見に参加していて、それが、この花見の宴の救いであった。それから、うちの犬のチビも参加。みんなから可愛がられていた。やはり年寄りだけの宴会というのはつまらない。子供というカワイイ存在が必要であると思った。

 夜、NHKでは「無縁社会」の続編を放映。以前やった「無縁社会」が30代、40代にかなり反響をよんだらしく、感想をツィッターに書き込んだ30代の人たちの取材を行っていた。

 今「無縁ビジネス」がはやっているという。驚いたのは、話し相手のサービスという仕事で、24時間、孤独な人のとりとめない話しを電話でただ聞いてあげるだけの仕事である。10分間1000円で、月20万円使うものもいるという。ほとんどカウンセリングであるが、カウンセリングは、一応心の病という要素が入り込むが、ここではただ寂しいという理由でなりたつ商売である。

 でもツィッターもブログも、そういうコミュニケーションツールはるだろうにと思うが、やはり、字ではだめなのだ。声で話し、相手の声という存在を確かめないと、孤独は癒されないのである。これは鷲田清一『聴くことの哲学』で指摘されている通りである。孤独を癒そうとか治癒しよう、という意味のある関係が介在すると、人は癒されない。ただ、何の意味もなく自分の声を聴いてくれる存在がそこにいる、ということだけが決定的に重要なのだ、ということである。
 
 いろいろと考えさせられたが、穂村弘とのシンポジウムに引きつけながら考えていた。近代の文学のメッセージは自分という存在の「かけがえのなさ」ではないかと穂村弘は述べるが、その「かけがえのなさ」は、実は、孤独や不安とセットになっている。つまり、孤独や不安を肯定的に反転させたのが、「かけがえのなさ」ということだろう。とすれば、それは、最初から矛盾を抱えている。というのは、孤独や不安に人は耐えられるはずはないからだ。つまり、孤独や不安の臨界点があるはずで、この「かけがえのなさ」というのは、その臨界点が見えない、という状況のなかで成立する、と言える。

 が、見えてきたらどうなるのか。「かけがえのなさ」なんて言ってられなくなる、ということである。自分の居場所あるいは、自分の声の聴き手を必死に探さなくては、生きていけないというのが、この臨界点でのふるまいなはずだからである。

 現代というのは、この臨界点が見えてきた時代なのだというように言えるだろう。「無縁社会」に大きく揺さぶられる若い人たちを見るとそう思える。いや何よりも、穂村弘もそうだし彼が選び出す「棒立ち短歌」の歌人達もそうなのだ。そういう意味では近代の文学が大事にしてきた価値観ではこれらの歌人を語れないということになる。なら、どのように語るのか。「臨床的」に語るしかないというのが私の考えである。

                        わいわいと死に方談義花の下

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