晴れやかな顔になれれば…2009/11/01 13:41

 今日は久しぶりの休日、ゆっくりとチビとの散歩。近くの公園では、紅葉になりかかっていて、落ち葉も捕り敷き始めていて、気分よく散歩できた。チビは時々散歩のコースが気に入らないとてこでも動かなくなる。写真はそういうときの抵抗の姿。

 考えてみれば、ここ二週間近く休みがなかった。24日、25日の土日は学会大会と研究会。今週も昨日の土曜は研究会。土日は、ほんとに学会や研究会ばかりで、平日は毎日会議と授業。明日は授業。明後日休んだら、11月の土日は、推薦入試ややはり研究会や学会で全部潰れる。休日の11月23日も授業である。しばらく山小屋に行ってないが、この調子じゃ年末までいけそうにもない。

 60歳というのは、かつてなら定年退職の年齢である。ところが、これからやらなきゃならない仕事が山積している。この歳になって、まだ自分の研究の成果らしきものをまとめていないと思っているので、もうそろそろそういう仕事をしなきゃならんだろうとは思っている。そのためには、学校の雑務やら学会の雑務やらを何とか少なくして、といきたいものだが、増えるばかりでなかなか減らせない。

 出身校の大学の二部が廃されたということもあって、記念文集を作りたいのでということで原稿を頼まれていたのだが、それをようやく昨日送った。15枚ほどの短い文章だが、私の二度目の学生時代(一度目は学生運動の時代)で、勤労学生としてほんとに懸命に勉強した頃の想い出を書いた。書きながらあの時代の頃が懐かしくなった。

 当時植木関係の農協に勤めていて、5時に終わると大学の二部に通った。その四年間はたぶん一番勉強した時代だっただろう。28歳の時に入ったのだが、自分で稼いだ金で、最初から勉強するつもりで入ったわけだから、寝る間を惜しんで勉強していた気がする。

 もっとも私の場合学生運動でいろいろ引きずるものがあったから、そういう重たい物を忘れたいという意味合いもあった。つまり、物書きとか、研究者になろうなどという気持ちはなく、ただ、何かを懸命にやっていることで、他のことをなるべく考えないようにしていたということだ。     

 おかげで研究者になってしまったものだから、それなりに何か遺さないとまずいなとは思う。そろそろエゴイストになって自分の仕事のこと以外は何もしないぞ、という気概が必要なのだが、一番苦手なところである。お願いだから、私に余分な事を頼まないで欲しいとひたすら周囲にお願いするしかない。

 柳田国男が、敗戦の昭和20年8月15日に、いよいよ働かなければならぬ時が来たと日記に書いたとき、確か70歳である。『海上の道』を本にしたのが亡くなる2年前で86歳。70歳でさあこれから私が頑張らないとだめなんだと宣言するその気力がすごい。特別な人だとは思うが、やはりその生き方というか気力の問題であるようだ。

 年を取って元気な学者や思想家はとにかく自信に満ちあふれている。自分のやっていることは、世のため人のためになる優れた仕事であるという自信である。他人の批判などにびくともしない自信でもある。良い意味での自己中心性である。自分の名誉のために生きることは自信につながらないし元気にもならない。とにかく、ただ長生きするために生きているのではなく、世のため人のために生きているのだという確固たる自信がないと長生きも出来ないということだろう。私にそういう生き方は出来そうにない。世のため人のために生きたいのはやまやまではあるが、ただ、自信はあまりないからだ。

 かつて沖縄に祭りを見に行ったとき、村の祭事を担うお婆さんたちの元気さや、その表情の晴れやかさをとてもうらやましく感じたことがある。かなりの高齢でも、村の中で大事な役割を与えられている。自分に自信があるというのではなく、生きていることに疑いがないのだ。家族の中で、あるいは、共同体の中でのしっかりとした役割があって、そのことへの疑いがないのだと言ってもいいだろう。

 あのお婆さんたちがいた沖縄の共同体は、今の日本の社会には存在しない。誰もが生きることに疑うことを当然としている社会になってしまっている。その中で自信を持つということは、厳しい競争を生き抜いてきたという勝者の自信でもあろう。それはそれで大事なのだとしても、あの沖縄のお婆さんたちの晴れやかさとは違う。

 柳田国男のようにはとても生きられないが、少なくとも、晴れやかな顔が出来るようには生きてみたいものである。難しいことだとは思うが、せめてそれくらいなら何とか実現出来そうである。

誇らしげな偶像木枯らしは吹く

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