柳田への批判2009/03/16 01:40

 今日は卒業式である。良く晴れて、気分のいい卒業式であった。やたらに記念写真をとって、妙に顔が疲れてしまった。写真映りが悪いと思っているので(写真映りが悪いのではなくて自分の顔が気に入らないだけなのだが)、記念写真の時は顔がこわばるのである。学科長は、いつも集合写真の最前列の真ん中に坐って無ければならない。しんどいことである。

 学生の顔はさすがに華やかで見ていてこちらも気が晴れる。これからどういう人生が待っていることやら、少し心配ではあるが、羨ましい限りである。若いということはそれだけで価値があると思う時があるが、卒業式もそういう時だろう。

 そのあと、私の属する日本語・日本文学コースの懇親会。教員と助手さん二人の送別会もかねた。楽しい会であった。

 帰ったら、NHKで写真家、森山大道の旅というドキュメントをやっていた。何か懐かしい写真が出てくる。私より上の世代であり、私どもの世代にとっては、私たちの時代を象徴する写真家である。まだ元気で東京の路上を撮り歩いている。写真もいいなと思いながら見ていた、実は若いときに写真をやろうと思ったときもあった。すぐにあきらめたが、写真は表現方法として嫌いではない。

 ここのところ柳田国男の『先祖の話』について書こうと思っていて、学校の雑務の間をぬって関連する本を読んでいる。昨日から読み初めて読了したのが岩田重則『戦死者霊魂のゆくえ』。

 柳田は『先祖の話』で、戦争で日本人が死をおそれずに戦う文化的な背景に、この世とあの世の近さ、親しさがあると説く。つまり、近いからこそ、死者の魂はあの世とこの世を行き来する。そういう考えがあるから死を怖れないのだと述べていく。それを象徴的に「七生報国」という言葉で述べる。

 ここはかなり批判されているところだが、やはり、岩田重則も、柳田のこのような先祖信仰から導き出した「七生報国」という言い方は、結果的に戦争を肯定し、戦争遂行のイデオロギーそのものになっていると批判している。むろん、一方で、靖国神社のような国家の神社に魂を管理されない、家での祖先祭祀を強調するところは評価している。

 戦死者という横死者をどう祀るか、という問題は実は日本の宗教はきちんと結論を出していない。だから、靖国神社が存在するのだというわけだが、柳田は、戦死者の魂は、遺族が家や村で先祖を祀るように祀るのであると述べて、靖国神社が祀ることには批判的な言い方をしている。そこがなかなか興味深いののだが、むろん、戦争での横死者をほんとうに先祖を祀るように祀れるのか、疑問が出てくるところではある。

 岩田重則の本は、『先祖の話』をよくまとめていてためになったが、何か違うなと言うところもある。それは柳田を結果的に戦争肯定だとか、戦争遂行のイデオロギーだとか、とても明確に言い切ってしまうところだ。

 そういう批判が多いので、そういう批判が持つ陥穽に気付いていないのではないか。柳田は戦争を肯定するとか批判するとか、そういう立場に立たなかった。それは柳田の学問の最初からの方法だったと言える。むろんそれを批判することはいくらでも可能だが、そう言う立場であれば、戦争を肯定したとか批判し得たのにしなかったというような批判は、的外れである。

 結局、こういう批判は柳田に戦争を批判して欲しい、という無いものねだりがある。日本の戦争は絶対悪だから、それを批判しないどんな学説も悪であるべきであるという、明解な物差しがある。別に柳田を救いたいというのではない。こういう批判は安易すぎて面白くないのだ。

 こういうように一度学問を批判してしまうと、当然、批判されないためには、学問は、戦争の遂行者である国家に対して常に批判的なスタンスを取らなければならなくなる。つまり、一番批判的なスタンスを取ったものが、とっていないものを批判する、というヒエラルキーが学問の世界に成立してしまう。そうすると、最初から国家に批判的な思想に依拠した学問が大きな顔をして威張り始める。それをイデオロギーというが、例えば戦前はプロレタリア階級を価値としない芸術はそれを価値とする芸術によって容赦なく批判された。そのようになる。

 今、柳田を論じる場合、どうもそういう批判の仕方が流行っていて、この本もまたそうだった。そこがつまらなかった。そういう論じ方をしてしまうことで、柳田の大事なものが論じられなくなっていると思うのである。

  さようなら陽射しを浴びて巣立ちたる

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