吉本隆明の講演2009/01/06 01:21

 今年の正月は雪のない暖かな正月である。来訪者もなくそれなりに仕事にかかれた正月であった。正月に仕事が出来たことを喜んでしまうのは悲しい話であるが。

 4日E君一家が来訪。一晩泊まっていった。二人の女の子がいて、二人ともとても可愛い。特に下の子は2歳半なので一番かわいらしい頃だろう。知能はうちの犬と同じくらいだから、何をしてもみんなから可愛いと言われる。逆に小学生になったばかりのお姉さんは、そういうときはちょっとおもしろくなさそうな顔をする。明らかに大人たちは自分より妹を注目しているからだ。こうやって世の中は自分中心ではないことを知っていくというわけだ。

 夜、NHKで吉本隆明の講演を特集で放映していた。たぶん、テレビでは初めてではないか。仕掛け人は糸井重里である。吉本は83歳になった。糖尿病であまり目が見えないことは知っていた。言葉も老人らしい発音になっていて、さすがに年をとったなあ、という印象。テーマは「言語芸術論」。

「言語にとって美とは何か」を下敷きにした話であった。要するに芸術的価値とは何かという話で、結論としては経済的な価値とは違うのだということになる。たぶん遺言のような講演なんだろうと思うが、なぜ、言語の芸術的価値を今強調しなければならないのだろう、ということに興味がわいた。

 それはおそらく吉本が徹底してたたいたつもりでいた、マルクス主義芸術論のような機能主義的立場の思想が今隆盛を極めていて、自己表出という言い方で強調していた芸術的価値が顧みられなくなっていることに、危機感を感じているのだろう。

 何となくわからないではない。たぶん今隆盛を極めているのは、資本主義的芸術価値論である。つまり、売れるか売れないか(消費的価値)、というところから芸術性が判断され、それ自体意味のない芸術的価値を評価することが出来なくなっているというのだろう。それはとてもよくわかる気がする。

 言語の根幹は沈黙なのだと言い切るところに、吉本の変わらない思想を感じる。こういう思想は私がかなり影響を受けたところだ。沈黙はきっと売れない。だからそれを価値とする思考をとらないのが現代的な価値論ということになる。

 あと、言葉とは人間と自然の交通路であるという言い方はなかなかおもしろかった。1時間半の番組だったが、思わず見てしまった。

                        一つ家に幼子もいる三が日