アンケートは嫌いだ2008/06/05 00:26

 私の勤め先ではウェブを使ったアンケート調査というのをやっていて、学校への満足度調査結果が今日届いた。私の学科の満足度はけっこう高くて、かなり満足、ほぼ満足合わせると80パーセントを超える。最初の調査にしては、これは悪くない数字だが、逆に、次回の調査からこの数値を下回ったら、何をやっているのかということになる。その意味では厳しい数値である。いきなり最初からハードルを高くしてしまったのである。

 質問項目の中に、あなたは人に聞かれたとき自分の所属している大学名を言えますか、というのがある。嬉しいことに、堂々と言える、言えるという答えがこれもやはり80パーセントを超えた。私のところは短大だが、それでも、大学名を言えると答えることが出来るのは、いいところで学んでいるんだという意識があるからだろう。

 私は数年前から「ハードな短大宣言」というキャッチコピーを作って、レベルは高いよ、というイメージを積極的に作ってきた。それが功を奏してきたということだと思う。マニフェストを作って学習目標もやや高めに設定して、勉強する学科のイメージを作ってきた。短大は凋落傾向にあるのに、その流れにあえて逆行することを始めたのは、短大の需要はあるとの確信と、それなら、短大に入学することに胸を張れるような環境とイメージを作らなければ、という思いからである。

 特に、四大の学生と一緒のキャンパスにいると、とかく短大生は~と言われがちで、自信を無くしがちな短大生を元気にするには、こういう勉強をしているんだ、という誇りのようなものを持ってもらうことである。私の属する学科を選んだ理由にカリキュラムをあげた学生が少なからずいるのも心強い。何を勉強しているのか、という自覚がそこにはあるからである。

 とりあえず学生の学校への満足度はいいとして、今度は、教員への満足度ということになるが、これがなかなか難しい。教員全部が全部、私の思惑通りに動いてくれているとは限らないからである。マニフェストを作り、学生の学習意識を高めれば、当然教員に対する要求が高くなる。それに対応出来ない教員がいれば、それへの不満は、今までのようなものとは訳が違う。当然、学校側も学生の不満を聞く窓口をウエブ上に設けている。学生は、教員や授業のレベルが低いとクレームをつけやすくなる。現にそういうクレームが来ていて、私はその対応に追われているのである。

 言っておくが私はこういう教育環境を理想的とも思っていないし、歓迎しているわけではない。ただ、休講をしたほうが学生から喜ばれるとかいうような牧歌的な時代を生きていない以上、これは受けいれなければならない変化である。そしてこの変化にはそれなりの合理性がある。一部の特権的な者だけが受けるという教育ではなくなったからこそ、教育もまた人々が引き受けなければならない経済行動と同じように、効率性や競争原理にさらされるのである。

 教育も人と人との関係の上に成り立つ以上、あまり競争原理や効率性だけではという考えももっともだが、たとえどんなに厳しい利益追求の企業であっても、その組織では人と人との情のつながりはあるはずであり、人はそういう風にして、どんな環境でも、人間の持つ情や遊び心や余分な労力などを見出していくものである。それが見出せない企業組織は潰れる、というのもまた、人は経済的に生きると同じように真実である。そう考えれば、教師と学生との関係が昔のような緩いものでなくなつたからといって、人と人との関係そのものが変質してまうわけではない。

 もし、そうだとすれば、つまり、教員が学生との関係を昔のように持てなくなったとするなら、それは、教員も人並みに働かなくなければならなくなってきて余裕が無くなっている、ということであろう。だったら、教員は自分を鍛えて余裕を持つしかないのである。

 私はアンケートが嫌いである。アンケートをとらなくても普段から学生と接していれば、アンケートの数値はだいたいわかる。アンケートをとるのは、学生の気持ちを知ると言うことよりも、学校という企業が生き延びるための施策を導き出す計測こそが目的である。むろん、学生を大事にするという思想があればそのアンケートはいかされるが、その思想がなければ、学生はただの消費者のようなもので、本当の意味で大事にされるわけではない。アンケートの指標をあげるために学生が存在する、ということは大いにあり得るのである。

 アンケートをとらなければ、わたしたちの努力がどのように成果を上げたかという結果をみんなが共有できない。が、一度アンケートの計測の数値を得てしまうと、この数値に支配される。アンケートというのはなかなかやっかいである。

入梅や人の心を測りけり

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