雲南で北野武を読む2007/03/30 23:52


 元陽の棚田はハニ族が作ったものである。雲南省は山ばかりだから、棚田はいたるところある。が、元陽のはその規模が違う。また、霧が発生しやすいので、雲海が棚田を覆うと風景として格好のものになる。それで写真家が大勢押しかけるというわけだ。

 それにしても、雲南省の棚田や棚畑を見ていると、人間の根気良さに驚嘆する。むろん、何世代もかかって作り上げたものだが、人間の生活力とは凄いものである。雲南省南部は実は茶の生産地である。特に普洱茶の産地である。最近この普洱茶が人気があるので、あちこちで生産している。といっても、普洱茶は、いわゆる普通のお茶の葉をカビを使って発酵させたもので、あのかび臭い普洱茶がそのまま生産されているわけではない。

 茶は換金作物であるからあちこちで生産され、しかも稲や畑作のような手間もかからないから、あらゆる山肌が茶畑になっている。思茅市は普洱茶で有名な都市だが、4月から名前が普洱市となる。中国人は、良いお茶にはいくらでも金をだす。そのくらい茶好きである。普洱茶は丸く固めて円盤状にして売っているものが多い。

 普洱茶は古いものほどおいしいと言われていて、古いものは高値で取引される。それで日付の入った円盤状の普洱茶を壁に飾っておき、何年かしたらそれを飲むというわけだ。百年ものなんてのがあるのである。

 ただ、味にはやや癖があるので、日本人には嫌いなひともいるのでお土産には向かない。が、おいしいのはほんとにおいしい。ワインの熟成した味があるがそういう感じだ。新茶の苦みを好む日本人にはちょっとわからない味だろう。

 そのうち、山という山がほとんど茶畑に変わるだろう。中国人のこういうエネルギーもまたすごい。机以外の四つ足は何でも食べるというあのエネルギーは、貪欲な自然のエネルギーそのものではないかという気さえしてくる。13億とは、もう一つの自然なのかもしれない。

 宿泊したのはほとんど良いホテルばかりだったが、江城という都市のホテルは西洋式便器のないホテルだった。かつてこういうホテルばかり泊まっていた私としては懐かしい感じだった。奥地の招待所に行ったとき、シャワー付きトイレというのがあってなんだろうと思ったら、要するに、便器の頭上にガス湯沸かし器がついていて、便器をまたいでその湯沸かし器のお湯のシャワーを浴びるというものだ。お湯は便器の中に消える。うまく出来ている。むろん、お湯は出なかったが。

 タイ族の村で出会った水路の上のトイレが面白かったのでその写真を載せておく。

 本を何冊か持っていった。佐々木高明『南から見た日本文化』上・下巻、柳田国男全集第14巻(ちくま文庫)、それから空港で北野武著『全思考』を買って、飛行機の中で読んだ。佐々木高明の本も上下とも読了。柳田国男を読み始めたところで日本に帰ってきた。

 北野武の本はなかなか面白かった。北野武は私より二つ上だが、何となく境遇が似ているところがあって、その思考や生き方がよく分かるのだ。武の父親と同じように私の父も職人でよく酒を飲んで暴れていた。子どもの時は貧乏だったし、親が懸命になって入れてくれた大学を勝ってに辞めてしまったのも同じだ。コンプレックスや斜に構えた生き方、目的を見つけられない虚無感、観念を信じないわりに観念が好き、というところも似ている。

 むろん、だいたいわたしたち団塊世代には多いタイプなのだが、武のすごさは、やはり、漫才で行くところまで行ってしまった、つまり、向こう側を垣間見るほどの体験を持ったというところだろう。それがあるから映画を作れる。そういう体験のない私にはうらやましい。

 この本で武は死を多く語る。彼の映画のテーマはほとんどが死である。それは、彼自身がコントロール出来ないほどのエネルギッシュな身体と、常に醒めているしかない意識(眼)とに深く分裂しているからで、それを統合するにはたぶん死しかないないからである。生きるとはそれを避けることだとすると、彼の人生とは、手に負えない身体と苦痛でしかない意識との分裂を抱え込んで生きるということだ。

 映画はその生に逆らう物語だ。だから映画では常に死に近づこうとする。言わば自殺願望を映画にしていると言ったららいいか。だから彼の映画が万人に受けるわけがない。私などは、その境地が何となくわかるから、彼の映画は辛くてあまり熱心には見ない。

 私はどうなのだろう。私にも少しは自殺願望がある。でも、それは人並みよりほんの数センチ多いという程度のものだ。が、私が本を書いたり歌を批評できるのは、この数センチのお蔭である。が、その数センチのお蔭で私は人生をほんとに喜ぶということがよく分からないでいる。が、そのお蔭で、人よりはものを考えて生きている気がする。

 今回の旅は私の調査でないので、こんなことを時折考えながら。中国のエネルギーにただ圧倒されていた。

   雲南の生きる力に春熱し

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