本屋大賞違う気がする2015/04/07 23:28

 相模女子大から私の著書の文章(『神話と自然宗教』)を入試問題に使ったとの知らせが届いた。ありがたい話である。ちなみに私の書いた文章はけっこう入試に使われていて、福岡女学院大学、大東文化大学、東京大学、そして相模女子大である。東京都の教員採用試験問題でも使われた。

 入試問題担当者に私の知人が多いというのが一つの理由だろうが、ただ、入試に使いやすいという面もあるのだろう。私の文章は読みやすいが難しいとよく言われる。テーマは明確なのだが、答えは暗示的で明確ではない。展開はエッセイ風でがちがちに論理的ではない。こういうのが問題作成には適しているのだ。ちなみに東大の国語問題に使われたおかげで、参考書に私の文章が掲載され、印税が少しは入る。私の本は少しも売れていないから、これが私が受け取る唯一の印税ということになる。

 今日、本屋大賞が決まった。上橋菜穂子の『鹿の王』である。実は、勤め先の大学で、学生達と今年の本屋大賞ノミネート作品から、自分たちで大賞を選ぶという企画を行った。今年の一月のことである。その企画者のメンバーとして参加せざるを得なかった私は、仕方なく、ノミネート作品十冊を全部読んだ。ノミネート作品は以下の通り。

 伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』、吉田修一『怒り』上下巻、川村元気『億男』、阿部和重・伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』、西可奈子『サラバ!』上下巻、上橋菜穂子『鹿の王』上下巻、月村了衛『土漠の花』、辻村深月『ハケンアニメ』、柚木麻子『本屋さんのダイアナ』、米澤穂信『満願』の十冊である。

 三月終わりに行われた学生の投票で、一位になったのは、柚木麻子『本屋さんのダイアナ』である。二位は伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』、三位は西可奈子『サラバ!』、月村了衛『土漠の花』であった。上橋菜穂子は評判はいいのだが学生は選ばなかった。

 ちなみに私が一位に推したのは西可奈子『サラバ!』である。二位は『本屋さんのダイアナ』。やはり上橋菜穂子は推さなかった。理由は、『鹿の王』は他の本とは異質であると言うことに尽きる。『鹿の王』はロングセラーとして読まれるような風格のある本であって、本屋が短期的にベストセラーを生み出すという目的もある本屋大賞候補にするにはちょっと違うのではないか、という気がするのである。つまり別格であって、本屋大賞にはなじまない。そして、今までの、『精霊の守人』シリーズや『獣の奏者』とくらべると、その物語性においてやや劣る。医学の話にこだわりすぎている。それも、大賞候補から外した理由であった。学生達は、面白いけど共感を持って読むという本ではないといった感想だったようで、他と比較しずらかったようである。

 柚木麻子『本屋さんのダイアナ』が一位になったのは、女子大の学生にとって主人公に一番感情移入しやすく、そして感動できる、という点にあったようだ。確かに私もそう思った。この主人公の女の子に私も共感出来た。傷つきながら成長していくよくある物語であるが、学生達は一番同一化しやすい主人公だったのではないか。

 私が西可奈子『サラバ!』を一位に推したのは、この情けない主人公のライフストーリーに、私は思わず自分を重ねて読んでしまったからである。主人公は中年になって自分を振り返るという展開であるが、その確固たる芯のない、情けない自己嫌悪の人生は、たぶん誰にも当て嵌まるものだろう。私にも大いに当て嵌まった、その意味で身につまされる物語である。こういう感覚はさすがに女子大生には無理だったようで、評判はいまいちであった。伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』の評判が良かった。ただ、この手の、別々の関係なさそうな物語が意外な線で最後にみんな繋がっていく、という伊坂幸太郎特異の手法による小説は、何と行っても『ラッシュライフ』が傑作であって、それの二番煎じは否めない。だから私は推さなかった。

 意外と面白かったのは、吉田修一『怒り』である。英国人の英語講師を殺害して逃避行を続けた千葉大の学生をモデルにした小説だが、三つの話が錯綜する。その展開が実にうまく読ませる。月村了衛『土漠の花』は、海外で後方支援に従事する自衛隊がはからずも、逃げて来た女性を保護するために戦闘に巻き込まれるという話である。敵地からの脱出というサバイバル戦闘もので、戦争アクションものとして迫力がある。が、冷静に読めば、ここに当時要する自衛隊員は、アメリカ特殊部隊顔負けの活躍をする。まああり得ないから面白いのだが。ただ、この小説は政治的に利用されることをねらって書いているところがある。つまり、後方支援とは言え襲われたら戦闘になり、その時に武器を持って戦うのは当たり前だという主張がある。自衛隊に武器を持たせたい安倍首相の感動するのが目に見える小説でもある。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://okanokabe.asablo.jp/blog/2015/04/07/7606745/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。