ムーミンを読む2014/10/25 15:55

 学園際が先週終わり、わが読書室の古本市は、古本市始まって以来の売上高を記録した。全学ユニセフに寄付するのだが、私の古本市のための読書もそれなりに役だったということだ。私の出品した本がかなり売れた。当然である、ほとんど新品と同じだから。

 ちょっと一息というところだが、仕事は山積である。こんど短歌評論集を出す予定。その初校校正がけっこう大変である。実は、短歌関係の本はほとんど山小屋に置いてある。従って校正が出来ない。そこで、月曜日は学園際のあとの休校日なので日帰りで長野まで資料を取りに行って来た。ところが、帰って来て二冊ほど持って来てないことがわかった。こういうぽかはいつもである。さあどうする。また行くというわけにもいかない。交通費だけで馬鹿にならない。そこでアマゾンで調べたら古本扱いで一冊600円程度で手に入ることかわかった。早速注文。こうやって本が増えていくのである。

 金曜日は「月光の会」の黒田和美賞の選考会。お二人を選んだ。好対照の作風の人である。そのうちのお一人は徹底して反戦、反権力を直接歌い込むという作風で、二〇年以上その作風を一貫して続けている。これはこれですごいなあと思わせる。ここまでぶれずに一貫するのもすごいことで、今の時代注目されるべきだというのが選考理由であった。これはこれで短歌表現の許容力を感じさせる。

 先週からトーベ・ヤンソンの「ムーミン童話」シリーズを読んでいる。「ムーミン谷の彗星」「ムーミン谷の夏祭り」「ムーミン谷の冬」「小さなトロールと大きな洪水」を読んだ。今「ムーミンパパ海へ行く」を読んでいるところだ。何故ムーミンを読み始めたかというと、来年、勤め先で、学生と教員が演劇を実演する授業を立ち上げる。その演目として児童文学がいいのではということになった。が、児童文学もいろいろあって、何をえらぶかが難しい。やはり、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」かと候補をあげたが、実は、これは今あちこちでやられているらしい。

 特に3.11大震災以降、死者たちを列車の乗客として登場させるというのが多いらしい。実は、そういうことも含めて改作して上演と考えていたのだが、さすがにみんな同じことを考えていてすでにあちこちで上演されているらしいのだ。それで、候補としてでてきたのがムーミンなのである。

 私は、原作を読んだことがないので、少し不安だったが、原作を読みすすめていくと、この原作けっこうシリアスな内容なのである。どの作品にも、必ずと言っていいほど、自然災害などの危機がまず設定される。「ムーミン谷の彗星」は彗星が地球に衝突して地球は滅びるかも知れないというなかで、ムーミン谷の連中の、脳天気とも言える不思議なドラマが展開する。危機に対して団結してまとまるなんてことは一切無い。そこがムーミン谷の面白いところである。

 みなそれぞれ個性的で、優しい。しかし、厳しい自然や洪水などの災害は容赦なく来る。何とかみんな生き延びる。私が好きなのは「ムーミン谷の夏祭り」で、ムーミン谷は洪水に見舞われ、ムーミンの家は洪水で押し流される。ムーミン谷に劇場が流れてくる。そこで、ムーミン一家はその劇場で演劇を始めるのである。初めて演劇を見るムーミン谷のものたちは演劇と現実の区別がつかず、大騒ぎになる、という話である。

 こういうストーリーを読むと、けっこう演劇向きではないかという気がする。むろん、このままではなくかなり改変していく必要があるだろう。脚本は学生が書くのであるが、女子大なので、みんなが演じやすいキャラクターが揃っていて、案外にいけるかもしれない、などと読みながら感じているところである。「銀河鉄道の夜」はどう演じても深刻で暗くなるのは目に見えている。とすれば、ムーミンの方が楽しくそのうえシリアスな内容もあり、というように展開出来るかも知れない。まだ決まったわけではないが、どうなるかである。