いよいよ学園際での古本市2014/10/18 00:01

 上橋菜穂子の「精霊の守人」シリーズ10冊を読破。新刊を古本にして、明日からの学園祭の古本バザーに出品。それから、森絵都の「カラフル」も読了。これも古本へ。「精霊の守人」シリーズは、なかなか読み応えがあった。私は「獣の奏者」シリーズよりもこっちのほうが好きだ。

 このシリーズの面白さは、国家対国家の対立が描かれていることだろう。帝国主義の国、鎖国政策を取る国、外交で切り抜ける国、強国に対抗する国家連合と、その世界の様相は帝国主義的世界の歴史がシンプルに踏まえられている。一方で、あの夜(ナユグ)とこの世(サグ)との対称的世界がきちんとしていて、呪術が大きな力を持つ。

 リアリティのある世界観のなかに、ファンタジーが実に巧みにはめ込まれている、その絶妙さがこのシリーズの面白さだろう。例えば魔術は国の政治を根底から支配する力を持たない。が、王はそれを無視はできない。魔術で世界を支配しようとする物語(神の守人)もあるが、結局失敗する。世俗的な権力や政治の論理は現実の国家を支配し戦争の勝敗を決着させるが、あの世(ナユグ)の力はそれを覆すことはできない。こういう基本的なパワーバランスを保った上で、国の運命を背負った皇子チャグムや、人間の情のために命を賭ける女性用心棒バルサなどの冒険物語が展開する。どの物語も、物語の王道である異界へあるいは戦争へと「行って」そして死に直面するが生き返って「帰る」物語である。個々の「行って帰る」物語は終わるが、世界観を構成する国の物語は、不安定のままであり、終わることはない。だから、物語は何処までも続くということになる。

 なかなかよくできている。読み終われば続きが読みたくなる。こうやれば何巻も続くシリーズもののファンタジーが書けるのだと妙に納得した。文章で関心したのは、戦闘や武闘の場面の描写が実にリアルでシンプルに書かれていることだ。とてもイメージしやすく説得力がある。あとがきで実際に武道を習っていたことがあるということが書かれていて納得した。創造だけでは身体の無駄のない動きは書けないだろう。登場人物の心情描写も無駄がなく、味わいのある日本の時代小説を読んでいる気になる。今回の古本にするための読書は、上橋菜穂子をほぼ読了したという意味で、疲れたがとても満足であった。

 最後に読んだのが「カラフル」で、これもなかなかよかった。ネタバレしてしまうとおもしろみがなくなる物語だが、人間はみんな欠陥を抱えながら一生懸命生きているという、この種の小説にはよくある真面目な主張を、うまく伝えている小説だ。上橋菜穂子も森絵都も児童文学出身である。日本の児童文学の作家もなかなかのものである。

 明日から学園祭で、読書室委員の学生達による本の展示や古本バザーがある。盛況で逢ってくれればいいのだが。今回は、割り当てられた教室が広すぎて、しかも、机椅子が固定式で展示にはむかない。が、それでも、お薦め本を紹介するビデオを学生が作りその映像をプロジェクターでずっと映すことにした。そうやって学生もいろいろと工夫している。この企画を始めた数年前は、私ががんばったが、今は、学生たち積極的にやっている。ようやく、らしくなってきたなというところである。

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