学内のSNSに参加2012/09/28 01:27

 授業が始まり、ようやく本来の仕事のペースに戻った。学科長としての会議もたっぷりである。先週の金曜日に代々木上原にクラシックの室内楽演奏を聴きに行った。知り合いの音楽家からの誘いで、二度目である。モーツァルトの弦楽五重奏曲4番ト短調などの曲を聴く。最近、身を削って本ばかり読んでいるので、たまにはこういう時間もいい。この曲何度も聴いた曲だが、手元になかったので、早速成城学園前でCDを買った。

 今日は読書室委員の人たちに集まってもらっていろいろ分担を決めた。それから学内専用のソーシャルネットワークがあって、そこに読書室のコミュニティがある。私は参加していなかったのだが、今回アカウントをもらって参加した。学生達もほとんど参加していない。私は挨拶代わりに、古本市のための読書として、この間、ずっと読んできた本の書評を掲載した。コミュニティに参加した学生が読んでくれればいいなと思ってである。

 ところが、今日の短大教授会で、隣に座った学長に、帰り際に古本市の書評読んでますよ、とささやかれた。驚いた。冷や汗が出た。そうか学内のSNSだから学長も読むのだ、と改めて納得。余計なことを書かなくて良かったと安堵した。

 この間読んだ本は以下の通りである。
 辻村深月『ツナグ』(新潮文庫)、百田尚樹『永遠の0』(講談社文庫)、磯前健一郎『終の住処』(新潮文庫)、荻原規子『空色勾玉』(徳間文庫)、島田雅彦『カオスの娘』(集英社文庫)、矢月秀作『もぐら 乱』(中公文庫)。

『ツナグ』★★★☆。死者と生者をつなぐ話しで、ほんとに最近この手の小説が多い。何故だろうか。それをかんがえるだけで論文が一本書けそう。「ツナグ」とはいわゆるイタコのようなシャーマンのことで、希望する死者に一度だけ会えるように設定する者のこと。イタコの語りは、死者の生者への未練や上手く生きられなかったことの教訓を述べることであるが、その語りだけで小説が書ける。それくらい、そこにはドラマがあるということだ。この小説、それほど深いとは思わないが、巧みなにストーリー構成で、確かに読ませるところがある。映画化決定とある。映画向きかも知れない。

『永遠の0』は★★★★。キャッチコピーが、読むと慟哭するなんて書いてあるから読むのを避けていた。こういうのに弱いのである。が、そう簡単には泣かんぞと決意して読んでみた。が、やっぱり最後は泣けてきた。感情移入すれば泣かざるを得ないように書いてある。困った小説である。特攻隊ものは悲劇で泣かせるに決まっている。国のために死ぬことを美化するのは好きではないから、あんまり読む気がしなかった本であるが、さすがに、絶対に死ぬな、と国の特攻方針に徹底して逆らった戦闘機乗りを設定したことで、そのように読まれることを回避している。そこに感心をした。

 『終の住処』★★★★。さすが芥川賞である。互いにほとんど話しをしない不思議な夫婦の物語を夫の立場から綴っていく。日常の風景や生活が描かれているのに、読者をとてもシュールな世界に誘っていく。ほとんど、文体と描写の妙だけで、読者を引っ張り込む。こういうのをやはり純文学と言うんだろうなあ、と感心。最近あまりこういうのを読まなくなったので、久しぶりな感がある。うちの奥さんとも一歩間違えればこんなになるんだろうか、などとあらぬことを考える。聞けば、奥さんもこの本買って読んでいたらしい。あまり考えないことにする。

 『空色勾玉』★★★☆。前から読まなきゃと思っていたので、この勢いを借りて読んでみた。まあまあと言ったところ。荻原さんとは以前私の学科長室でお逢いしたことがある。三浦氏とのシンポジウムがあって、私の部屋が準備室だった。小柄なとても感じの良い女性であった。解説が中沢新一である。これには驚いた。西洋ファンタジーの真似ではなく、日本の神話を題材に日本のファンタジー小説を確立した小説と褒めている。そう言われればそういう気がする。

 『カオスの娘』★★★☆。けっこう面白かった。シャーマン探偵であるナルヒコシリーズの第一作。以前に読んだ『英雄はそこにいる』はこのシリーズものの一つである。島田雅彦がシャーマニズムをよく勉強していることがよくわかる。ナルヒコがシャーマンになる通過儀礼のところは、エリアーデの「シャーマニズム論」を下敷きにしているだろう。教養教育で「シャーマニズム」をテーマに授業を行っている私としては、シャーマニズムの解説書のように読めてしまう。授業に使えるかなと思ったが、女子大生向きではない。女子高生が監禁され奴隷にされそして殺人者になる、なんていうすさまじい内容が出てくるのだ。『もぐら 乱』は典型的なハードボイルド。★★★。サラリーマンが通勤の途中に読むのに適した本である。アウトローが活躍する警察もの。中国マフィアの殺し屋とアウトロー警官との戦い。殺し屋に殺された警官が50人。いくら何でもそれは殺しすぎだろう。要するに荒唐無稽ですかっとします。