スケッチオブミャークに涙する2012/09/21 00:33

 今週から後期が始まるが、九月締め切りの原稿を二本何とか書き終えた。締め切り前だが、民俗学関係の研究会で発表めいたことをしなくてはならないことがあって、その準備もあり何とか早めに書き終えた。それから、今年はあと二本の原稿を書かなきゃならない。その準備も忙しい。いつものことだが、どうなることやらである。

 昨日、かつての教え子から、東京都写真美術館で「スケッチオブミャーク」という宮古島の古謡や神謡を題材にしたドキュメンタリー映画に誘われたので観にいった。宮古島狩俣のウヤガンを見に行ったのはもう何年前のことだろうか。その映像が出て来たので懐かしかった。もう20年近く経つのではないか。宮古の年老いた歌い手たちが民謡や神歌を歌う様子の映像が流れる。みんないい顔をしている。いつもそう思う。観ていて何か涙が出て来た。

 見終わって教え子たちとエビスで飲み会。彼女たちもう三十代である。先生変化が止まりましたねと言われる。ある次期まではどんどん老化していたが、最近老化が止まったらしい(見た目の問題)。つまり、もう立派な老人ということか。本人、まだそうは思ってないのだが。

 古本市のための読書はもはや中毒になっていて、忙しくても止められない。ほとんどスキャン読書だが、何とか続けている。読んだ本、伊藤計劃・円城塔『屍者の帝国』(河出書房新社)、山田悠介『種のキモチ』(文芸社)、T・R・スミス『チャイルド44』上下巻(新潮文庫)、三浦しをん『神去なあなあ日常』(徳間文庫)、サラ・パレツキー『ブラックリスト』(早川書房)、桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』(創元推理文庫)である。

 『屍者の帝国』は★★☆。今回から0.5ポイントは☆にした。これ新聞でとりあげられていて結構期待したんだが、面白くなかった。19世紀の時代設定。フランケンシュタインによる人造人間製造以来、各国ともゾンビを人為的に作りだしてロボットのようにこきつかっていた。アイデアは見事だとは思うが、やたら哲学的な会話があったりして、読者に何を提供しようとしているのか、いまいちよくわからない小説だった。

 『種のキモチ』はホラー小説。★★★。植物化した可哀相な人間の話だが、あっというまに読める。文庫になってから読めばよかった。単行本だが活字が少なくてすかすかな本である。紙がもったいないという感じ。『チャイルド44』は2009年「このミステリーがすごい第一位」だそうだ。★★★☆。スターリン政権下での連続殺人鬼と、その殺人鬼を追うソ連の諜報機関員の話しだが、追いつめるはずの主人公がソ連の諜報機関から逆に追いつめられる、という複雑な展開で、最後まではらはらさせる展開で、疲れる。面白かったが、さすがに続編は読む気がしない。自由のない国での探偵小説は、とにかく、窒息感が半端ではない。探偵小説はやはり自由がある社会でのものであって欲しい。

 『神去なあなあ日常』★★★☆。神奈川の高校生がいきなり三重県の林業組合に就職し、そこで林業を仕込まれながら成長していく、というおきまりの話しだが、軽いノリで書かれているので面白かった。ちょっと乗りすぎたろうというストーリー展開もあるが、目の付け所は悪くない。ちなみに、三浦しをんは現代の日本をよく観察して、斜陽になりつつあるところを探し出して元気づけようとしているように思う。この小説は典型的にそうだ。
 
サラ・パレツキー『ブラックリスト』はたまたま大分前に買ってあった文庫で、今回古本市の読書のために読んだ。読まないと古本にならないので。評価は★★★。懐かしい、久しぶりの女探偵ウォーショースキーである。とにかく長かった。主人公は、廃墟になった邸宅に人が出入りしているので調べて欲しいと頼まれ。その邸宅の池からジャーナリストの水死体を発見する。その発見から、その水死体を殺めた犯人にたどりつくまで七百頁かかっている。その間、若い時にアメリカの赤狩りに翻弄された老人達の話しがえんえんと続く。これにはさすがに疲れた。『赤朽葉家の伝説』も大分前に買い積んであった本。★★★☆。けっこう面白かった。GOSIKしか知らないがこういう本も書くんですね。ライトノベルと本格的な長編小説とごたまぜになっているところがあって、その案配がけっこう面白かった。この多少の荒唐無稽さがないと、おどろおどろしい物語になりそうである。