そろそろ読書にブレーキをかけなくては2012/09/03 00:56

 遂に九月に入りそれなりにのんびりともしていられなくなった。金曜には校務で出校。土曜は学会でまた出校。会場がわが大学なので私が行かざるをえない。学会例会の発表は、私より年上の研究者。アマテラスを中心でありながら周縁的(多義的)だとするとらえ方で、実にたくさんの資料でそのことを語る。

 中心性とは律令国家成立によってアマテラスが国家の先祖神として象徴化されたことをいう。一方で、多義性というのは、例えば近親相姦的な物語のつきまとう斎宮などとかかわるアマテラスの問題。私は意地悪く、中心性と多義性が同時に成立するのは論理矛盾ではないか、と質問した。質問の意図は批判にあるのではなく、その面白いアマテラスのとらえかたを、中心と周縁という概念で説明は出来ない、それでは論理矛盾になるから、別の説明原理を考えた方が面白い、ということを言いたかった。

 結局、最近の古代研究は、律令国家成立という視点から神々の体系が確立したと説く見方と、それ以前からの土着の多義的な神々の延長に古事記の神々をとらえる読み方と二つあるが、両方とも間違いではなく、問題はそれらを繋ぐ論理をどう作るか、ということにある。律令というシステムや中国帝国の観念の影響だけでも語れず、かといってアニミズム的な神々の延長でも語れない。それらを融合して成立する神々の像について、まだまだ説得力のある論が出て来ているとは言えない。これは、天皇や律令国家そのもののあり方にもかかわるだろうし、大きな問題でもある。そういう意味では、いろいろと発展可能な問題を抱えた発表で面白かった。

 今日、何とか論文を一本仕上げる。まだ完成形ではないが、とりあえず、何とか一つは形にした。9月末にあと一本書き、10月に一本、11月に一本と毎月一本のペースで論文を書かなきゃならない。

 古本市の為の読書もまあまあすすんでいる。前回のブログのあとからこれまで読んだ本。ジェラルディン・ブルックス『古書の来歴』上・下巻(RHブックス)、伊坂幸太郎『夜の国のクーパー』(東京創元社)、舞城王太郎『短編五芒星』(講談社)、湯本香樹実『岸辺の旅』(文春文庫)、高村薫『リヴィエラを撃て』上・下巻(新潮文庫)。

『古書の来歴』は★★★★(おすすめ)だが、好き嫌いはあるかも知れない。実際に現存する中世のユダヤの祈禱書をめぐる物語。主人公はサラエボで発見された本の鑑定を依頼された古書鑑定家だが、物語はこの本の製作や装丁に関わった様々な時代を巡る。この種の物語の構成ははじめてで、その点は新鮮みがあった。しかし、やたらに人が死ぬ。キリスト教、ユダヤ教、そしてイスラム教となんて血生臭いのか。それが印象的。好き嫌いはその血生臭さを受け入られるかどうかにある。

 伊坂幸太郎『夜の国りクーパー』は★★★★。伊坂の本あまり面白いと思ったことはないのだが、この本は意外と面白かった。スイフトの風刺小説を上手く翻案した小説というところだ。この本はネタが命なので、内容には触れない。最初何処へすすむのかいらいらするが、最後まで読み切ると面白い。『短編五芒星』は★★★(まあまあ)。五本の短編がみな芥川候補作と帯にあるが、ほんとうだろうか。芥川賞も変わったなあと思う。面白い短編が2本、面白くないのが3本。私に意外と受けたのが「バーベル・ザ・バーバリアン」。いわゆるポップ小説というものだが、このセンスは悪くはない。

 『岸別の旅』は★★★。死んだ夫が妻のところに戻ってくる。その夫が死んでから帰ってくるまでの旅路を、その夫と妻が旅する話で、死者と生者の境界のない今流行の設定。最近刺激的な物語ばかり読んでいるので、こういうじっくりと生きることの意味を描こうとする小説を読むと、正直いらつく。が、がまんして読むとこういうゆつたりとした小説のペースになじんできてそれなりに心地よくなる。ただ、それだけのことで、なんとなく中途半端さが残る読後感であった。『リヴィエラを撃て』は★★★。四つあげてもいいが、最後読むのに疲れてきて、もういいやと言う気持ちにさせたので★三つだ。イギリス、アイルランド、アメリカ、日本の情報機関との「リヴィエラ」という謎の人物を巡る諜報合戦の物語。芯の物語に主人公であるIRAの若きテロリストの悲しい運命と恋とが描かれる。外国人が書いたのではないかと思わせる外国の描写やテロの場面はすごい。ストーリーの緻密さも半端ではない。が、この半端ではない作り事への執拗な執着が欠点にもなっている。同じ話を何度も繰り返し読まされている気がしてしまう。あんたの力量はわかったから、先へ早く進んでくれと、何度も言いたくなった。でも、面白いことは面白い。

 そろそろこの読書もブレーキをかけ無ければならなくなった。が、多少中毒になっているところもある。困ったものである。

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