1984年の三作品2011/05/18 23:33

 いやはや忙しくてブログも書けない。研究日がないなどと言ってるどころではなく休みもないのがこんなにきついとは。想像はしていたが、さすがにきつい。

 先週の土曜はアジア民族文化学会の大会があり日曜は父母懇談会やらで出校。某学会のコラム原稿の締め切りがあり、そして、今週から、市民講座の万葉集が始まる。さすがに酒を控えた。コップ一杯のビールでも夕食に飲めば2時間は何も出来ない。その時間すら惜しいのである。

 が、授業の準備で大変なのは「アニメの物語学」。何せ異分野への挑戦でもあるから、こちらも力が入る。今週は、戦後アニメ史の1980年代。たぶん日本のアニメはこの80年代を実質的な始発とみていいだろう。中森明夫が、何となく普通と違うアニメファンを「おたく」と名づけたのは1983年である。

 日本アニメ史にとって1984年は記念すべき年になる。この年、日本のアニメを代表する作品が三本公開されいずれもヒットする。それは『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』『風の谷のナウシカ』『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』である。この年に「おたく」は勢いよく誕生したと言われている。

 吉本たいまつ著『おたくの起源』によれば、『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』は、ラムちゃんの夢の中である学園祭という非日常に閉じられた物語だが、その設定そのものが「おたく」の理想なのだという。「おたく」はラムちゃんの夢の中に理想的世界を見たのである。そして『風の谷のナウシカ』の清楚で胸の大きい美少女の異様なほどの戦闘能力に「おたく」は狂喜した。『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』は、宇宙戦艦、アイドル、モビルスーツ、ラブコメといった「おたく」の好きなアイテムがごった煮になったアニメである。

 私は『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』は見ていなかったので、先週見たのだが、けっこう感動した。自分も「おたく」に近いことを確認したのである。このアニメの面白いのは、サブカルチャーが人類を救うというメッセージが巧みに組み込まれているところである。人類を巨人族が攻撃するが、巨人族にはコンプレックスがあって、それはプロトカルチャーを持たないことだ。このプロトカルチャーはどうやらサブカルチャーのことらしく、物語では、ミンメイというアイドルが歌う歌がそのカルチャーを象徴している。

 ミンメイが歌を歌うと巨人族の戦闘意欲は消えてしまうのである。最後、人類は巨人族の総攻撃を受ける。そのとき、古代都市の廃墟から発見された、十数万年前に流行したというある歌をミンメイが歌う。その歌によって人類は救われるのである。その歌は、このアニメの主題歌『愛・おぼえていますか』であり、飯島真理が歌って1984年のオリコンチャートの7位になったほどヒットした。つまりこの歌が十数万年後に人類を救うという巧みな設定になっているというわけである。

 バブルの時代、サブカルチャーは勢いがあった。この三作品はその勢いをよく伝えている。このサブカルチャーを牽引したのは「おたく」である。今や「おたく」も「萌え」も世界に拡散し、この三作品は世界を制覇したと言ってもいいのかも知れない。押井守も宮崎駿も世界ではすでにアニメの巨匠である。

 80年代以降、「新世紀エヴァンゲリオン」や「ほしの声」などのアニメになってだんだんとアニメの物語がおかしくなる。発達障害の少年少女が戦争を強いられ、美少女を無理矢理戦闘機械に仕立てていく。「おたく」の夢がたくさん詰まった80年代のアニメが懐かしくなるほどである。

 ただ、宮崎駿がすごいのは、この80年代のアニメの勢いをその後ずっとその物語性において失っていないことである。押井守が「スカイクロラ」で物語をあきらめてしまったのと対照的である。宮崎駿はなかなかの物語作家なのだとあらためて感心するのである。

                         躑躅の勢いがおさまりつつ午後

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