日本の強み2011/04/28 00:37

 今度の原発問題で見えた来たことの一つは、何事も一極集中は良くないということではないだろうか。

 原子力エネルギーにある程度頼っている現状がある限り、いますぐ原発をなくせというのは非現実的だろう。原発をコントロールする技術を磨いて、少なくとも今ある原発を安全に運転する方法を見いだしていくしかない。原発を人間の手に負えない悪魔のように神話化することは、結局、今ある世界中の原発を危険な水準にとどめる結果しか生まないだろう。

 むしろ、深刻な問題は原発を管理する組織の側である。原発が抱える最大の問題は、その建設や管理、核の管理も含めてに国家の介在が必要となる、ということだ。言わば、国家という権力行使の象徴として原発は存在する。つまり、究極の一極集中型のエネルギー源である。とすれば、原発への反対運動は反国家という運動とならざるを得ない。だから、日本の原発反対は左翼による運動が主体だった。原発反対は即国家権力とぶつかるから、反国家的政治勢力しか担えないのである。日本では反戦平和と反原発は一緒の戦いだったのである。

 国家に委ねられる危険は今度の事故で露わになった。政治家は利権で動き、官僚は権力維持のために動く。安全性を客観的に判断するはずのお雇い科学者は、左翼とみられないように甘い予測に終始する。つまり、国家による一極集中の制度のもとでは、危険かも知れないと漏らせば、それは反国家的もしくは左翼的な政治性を帯びることになる。つまり、危険だという判断は、自らが属している組織そのものを否定するようなニュアンスを帯びる。これは独裁者に何も言えないのと同じことで、原発の危機管理は、余りにも硬直した国家の官僚組織のなかで、名ばかりのものになってしまったということである。日本の原発建設はこういう状況の中で進められてきた。そのことが、今度の事故の一因となった。

 どうすればよいのか。これから原発を作ることはこの危機管理の出来ない国家を信頼することである。それはもう出来ない、とすれば、厳しい規制を設けて民間に委ねる、ということしかない。が、民間は信用できないということになれば、やはり、代替エネルギーを探していくしかないだろう。今の日本はそういう方向に進んでいるようである。

 が、私はそうは簡単に代替エネルギーにはすすまないだろうと予測する。それは国家の信用というのは作り出せるからである。代替エネルギーには限界があり時間がかかる、経済原則からすれば、今ある原発を有効に使えという声が必ず出てくる。小泉首相みたいなカリスマ的政治家が出てくれば、今度は国家はうまくやってくれるに違いない、という世論になるだろう。喉元過ぎれば熱さを忘れる、というやつである。

 それに、「鉄腕アトム」という原子力のアイドルに親しんできた日本人が、原子力という科学への欲望を簡単に捨て去るとも思えない。日本のサブカルチャーは、原子力エネルギーを肯定する科学の上に成り立つ文化であることを忘れてはならない。宇宙戦艦ヤマトは、原発を否定する思想では生まれないのである。サブカルチャーは大震災以降ほとんど身を隠しているが、一大産業化したこの文化は復興とともに息を吹き返すだろう。

 とにかく一極集中を避けること。一つのエネルギーに支配されない社会を作ること。原発を必要とするなら、安全への技術の確立は当然だが、硬直した権力組織ではない危機管理組織を徹底して作り上げたうえで、というのが条件だろう。むろん、事故が起こったときの対策や補償も万全を期して、周辺住民の納得のうえで、という厳しいハードルを越えてということになる。

 恐らく、原発問題は私たちが公的な仕組みをどう作っていくのか、ということに関わっていると思われる。フランスの現代思想家たちが原発に頼るフランスの国家にあまり異を唱えていないように見える(実際どうかはわからないが)のも、公的な仕組みへの信頼が日本よりはあるからかも知れない。

 今度の事故の対応を見る限り、危機管理のシステムのなさを露呈した国家は信頼できないが、民間の現場での対応は、東電幹部の危機管理のなさは別にして、かなりうまくやっているのではないかと思う。日本の強さは、国家や責任者がだめでも、現場が頑張ってなんとか問題を解決するところである。つまり、民間の一人一人の実力が強みとということである。強力な公的仕組みを作って、現場の一人一人の強さを殺ぐような社会を作ってはならない。そういう一極集中型社会は、日本をだめにする。政治家や官僚が頼りなくてもうまく社会が機能している、それが日本の良さではないか。

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