ワ族の神話2009/11/13 00:48

 今日は教授会の日。私どもの学科の人数も少なくなり寂しい教授会だが、それでも私たちの将来に関わることはここで話し合う。今週の日曜から秋の入試が続く。ここ2年ほどわたしたちの学科は学生集めでは好調だったが、そろそろ反動がきそうである。どうなることやら。

 万葉古代研究所年報の原稿を何とか書き上げる。少しほっとした気持ちだ。これが終わるとすぐに「五七調のアジア」の本作りに入らないといけない。執筆者への案内を出す作業をしなくてはいけない。今週末はその作業で潰れそうだ。

 寧波大学の張先生から来年の春に寧波でシンポジウムがあるので来て下さいとの連絡。3月25日頃で、行きたいのはやまやまだが、ガイダンスと重なる。この時期ここ3年ほどずっと中国に行っていて、ガイダンスを人に任せていた。そろそろ難しくなってきた。学校の雑務と調査の日程が重なるといつも悩む。

 今日の授業で、ワ族の神話を紹介。ワ族の先祖は、シーガンリという洞窟に暮らしていた。蠅が洞窟に標をつけ雀がそこを啄んで穴を開け、人間は洞窟から出る事が出来た。ところが虎が出口にいて出てくる人間を食べてしまう。そこで鼠が虎の尻尾に噛みつき、虎が振り向いた隙に、人間は洞窟を出る事が出来た。鼠は穀物の種を地下に埋めたが、蛭がそれを地上に運び出した。それで人間は穀物を手に入れる事が出来た。部分を繋げるとこんな話になる。

 ところで、人間は、蠅に御礼がしたいと言うと、蠅は御礼はいらない、食事を少し分けてくれればいいと言った。雀に御礼がしたいというと、御礼はいらない、お米を少し分けてくれればいいと言った。鼠に御礼がしたいと言うと、鼠は、御礼はいらない倉庫の食料を少し分けてくれればいいといった。蛭は、せっかく運んだ穀物の種を人間に取られたので、仕返しに人間の血を吸うのだということだ。

 ワ族は陸稲を栽培している少数民族である。彼らにとって、蠅も、雀も、鼠も、蛭も害虫であり害獣である。農薬かなんかで退治したい連中だ。ところが、ワ族は、今ひどい目に遭うのは、かつて彼らに助けられたからだと考えるのである。神話でそう語る。なんて優しい人達だろうか。実は、ワ族は、首狩りをしていた民族なのだが、こういう優しさを持つ。 

 こういうように物事を考える民族がいることを知ることは大事なことではないか、というのが授業の趣旨。天敵をやっつけるために全力を挙げれば生産性もあがり、富を得られる。が、被害にあっても仕方がない、彼らにも生きる権利があり人間とは持ちつ持たれつなんだから、という発想だといつまでも貧しいままだ。でも、間違いなくワ族にはストレスはない。こういう発想は穏やかに生きる方法である。

 なかなかこんな風に考えられるものではない。身近に自分にとって凄く嫌な奴がいるとして、仕方がない、ワ族の神話に出で来る蛭のような奴なんだと思えば、納得がいくだろう。時にワ族のように考えてみるのも悪くはない。

                            神無月獣も虫も昼寝かな