みんなで読書会2008/06/12 23:15

 ここ数日わが家、といってもマンションの一室だが、に小さなヤモリが出没している。夜になると出てくる。なかなかかわいらしい。今のところチビは気付いていない。気付いたら大変である。それから、わがマンションには廊下に蚊を電気ショックで退治する誘蛾灯がある。ときどきパチッという音がする。蚊が電気で焼かれる音である。緑の多い環境なのだが、ヤモリもいれば蚊もいるということだ。

 チビはようやく新しい環境に慣れてきたようだ。ソファーを寝床にしてくつろぎ始めた。

 今日は読書委員の学生と「みんなで読書会」を開く。取り上げたのは東野圭吾の『手紙』である。読んでみたが、暗い内容であった。弟の進学費用のために強盗殺人を犯した兄と、その兄のために人生を狂わされ差別され続ける弟の葛藤、というのがテーマである。

 学生の評判はあまり良くない。テーマが重たいというのがあったが、なによりも主人公の弟に共感を感じ取れない、というのが大きいようだ。兄は強盗を除けばとても好い人で、刑務所から弟に何度も手紙を書く。が、弟はそれを迷惑に思う。兄のことを知られ、職を失うということが続くからである。

 弟は可哀相だが、実は、上昇志向があって、金持ちの令嬢と恋愛関係になるが最後は打算で付き合うようになるし、なかなか俗物的な面を見せる。最初は冷たくしていた女性と結婚し家族が出来ると、やり直すために兄と絶縁を決意する。が、兄の最後の手紙を読み、バンド仲間と慰問という形で兄に会いにいくところで終わる。読者は最後に救われる展開なのだが、どうもこの弟は好きになれない。

 秋葉原の事件がこの小説を色褪せたものにしてしまったという側面もあった。殺人という事件の凄惨さも、その追い詰められ方もやはり現実の事件の方が圧倒的である。この小説の出来事も当事者も秋葉原の事件を知ってしまうとかなり甘いと感じさせる。

 私は20代の時、職を転々とした。学生運動の後ということもあってまともな職業につけなかったのである。別にそれでもいいと思っていた。零細企業で、学生運動をしていたなんてことは隠して、何かわけありな社員達とけっこう楽しく仕事をしていた。中には、小指のない元やくざの人とか、もとキャバレー支配人とかもいて、いかにも吹きだまりのようなところだった。

 つまり、そういうところならば、兄が刑務所にいようが受けいれられる。が、いわゆる普通の企業に勤めようなんて思うと、家族のことがばれてしまって職を失うということになる。自分のために強盗殺人を犯してしまった兄のことを気遣い、そういう兄を持っているという宿命を受け止めて生きていくための方法も機会も本当はないわけではないのだ。が、この弟は、最初からないと思いこんでいるように思える。世の中そんなにひどいわけではない。むしろ、この弟の、底辺であってもそこにはそこでのまっとうな生活があるのだということに気付かず、そういう世界から逃げ出したいというその生き方が、差別を引き寄せいているとも言えるのだ。私の体験からそう言える。

 兄貴はある意味能天気だし、弟は自分の追い詰め方が足りないし、何となくフラストレーションの溜まる小説であった。結局この小説についてはあまり盛り上がらず、話はだんだんと雑談になりそっちのほうが面白かった。

 次の本は伊坂幸太郎の『アヒルと鴨のコインロッカー』に決まった。とりあえずは今売れてる本をみんなでわいわい読んでいこうというわけである。

            誘蛾灯じっと見つめる虫たちよ