ワインをいただく2007/02/24 01:33

 I君の家を尋ねる。彼は先日病院に見舞った当人である。月曜に退院して今は自宅で静養中なので、一人では何かと大変だろうと、食料や本の差し入れなどをしに行った。奥さんの実家と近くなので、奥さんに車で送ってもらった。奥さんの方は母親が入院しているので、実家の手伝いにと忙しい。

 I君は元気だった。どんな本を持っていったらいいかと悩んだが、とりあえずは小説などをいくつか見繕ってみた。そういえば最近小説など読んでいないなということに気付いた。ついでに、私のもとに送られてくる歌誌『路上』を持っていくことにした。仙台在住の歌人佐藤通雅が個人で出している歌誌だが、なかなか充実していてもう107号になる。

 この歌誌に歌人一ノ関忠人が「べしみ雑録」というのを書いている。実は、彼は、癌にかかっていて、この雑録は闘病記録的な性格も帯びたものだ。彼の歌集の書評をしたことがあるし、会ったこともある。だから癌だと聞いたときには驚いた。癌に向き合う歌もあり、I君に読ませるのはどうかなと思いつつも、とりあえず持っていった。

 この人癌と真剣に向き合っちゃっているなあ、というのが一ノ関氏の歌を読んだ時の彼の感想。それから、この人結婚しているよね、俺みたく独り者で癌にかかるのはあんまりいねえんだよなあ、と語る。そうか、確かに闘病生活は独り者にはきついかもしれないなあと考えさせられた。でも、独り者の方がこういう時は楽だよ、と淡々と語る。医者にこのままだとあと三ヶ月か五ヶ月だと言われた人の言葉だ。I君は強いなあと改めて感心する。

 彼はワインの蒐集家でいつか3万円で買ったというワインを飲ませてもらったことがある。さすがに美味であった。部屋のワインクーラーから高そうなのを取り出して、もう飲めねえから持っていきなよ、といわれたが、高そうなので断り一番安いのならもらってもいいと言うと、それじゃこれと、3千円くらいだというのをもらった。「シャトームーランデュカデ2002」という銘柄であった。

 奥さんに迎えに来てもらい三人でしばらく話をしてそれから奥さんの実家に行って夕食を食べ、川越に戻った。

     水菜噛む音もいのちになりにける